由布岳・その1
湯のまち由布院を象徴する山
■標高:1583.3m
■歩行時間:3時間10分
■登山日:2015年3月14日

    大分県は、おんせん県をもって任じている。鶴舞う形の某県も自称していたように記憶しているが、大分の場合、有名どころで別府・由布院なんかが代表的な温泉地と言える。このうち由布院の数多い温泉は、由布岳をその源としているのだと言う。由布岳の標高は1583.3メートル。豊後富士の二つ名を持つが、その山容はある種の魁偉さを合わせ持っており、本家富士山とはいささか趣を異にする。富士山同様火山ではあるのだけれど、溶岩の粘性がかなり高いため、溶岩ドームを形成し、独特の山容となったものらしい。由布院の街が広がる由布院盆地から、そそり立つ由布岳の姿を認めるのはたやすく、まさにこの地を象徴するにふさわしいその姿を誇っているようだ。そもそも私がこの山に興味を持ったのも、久大本線の列車旅の途中、由布院駅の前後からこの山を見上げたことに端を発する。



 とは言え、大分は遠い。由布岳に登るにしても、限られた時間を有効に利用するため、一計を案じる必要があった。計画の助けとなったのは、フェリーだった。実は、名古屋からだと大分行の高速バスがあるため、金曜の夜に出発して土曜の朝から登り始めること自体は不可能ではないのだけれど、どうしても睡眠不足になる夜行バスの夜が明けて、いきなり登り始めるには少々骨のある山に思えた。そこで、それなりに落ち着いて眠ることのできるフェリーの出番となったわけだ。残念ながら、名古屋から出るフェリーで大分に向かうことはできないが、阪神地区から大分・別府方面に向かう船はいくつかある。今回は、その中でも神戸と大分を結ぶフェリーさんふらわあの航路を採用した。大阪南港の地理に未だなじめないため、これを避けたものだが、比較的わかり易いはずの神戸六甲アイランドに行くにあたっても、電車の乗継などでミスを連発し、危うく置いてけぼりを食うところだった。最寄りのアイランド北口駅からフェリー乗り場まで走り、出港8分前に船に潜り込む始末。同じタイミングで船に乗り込んだ家族連れがこぼしていた通り、「飛行機であれば絶対乗せてくれない」ような慌ただしい乗船となった。乗り込んでしまえば、さすがは天下のさんふらわあである。これまでの九州行で乗ったいくつかのフェリーに比べても別格級に質が高く、翌朝の大分入港までは快適に過ごすことができた。

 由布院の顔とも言える由布岳であるだけに、登るにはまず由布院を目指さなければいけないと思っていたのだが、実際には海側に位置する別府を登山の拠点とすることもできる。別府と由布院を結ぶ路線バスが存在しており、1時間に1〜2本程度が走っているのだけれど、これの由布院側にその名も由布登山口と言う停留所がある。ここがそのまんま正面登山口となっている。つまりは由布院側を基地にした登山も可能と言うことなのだが、港のある別府や大分市から鉄道で由布院を目指そうとすると、決して本数の多くない特急を頼りに、久大本線をぐるっと南側に迂回しなければならないため、このバスの存在はありがたかった。

 かくて7:20の大分西港上陸から1時間半ほどを経た9時少し前に、由布登山口に到着。海岸部の別府付近から、ぐんぐんと高度を上げる道だった実感はあるが、登山口はすでに海抜にして780メートルの標高がある。しかし、順調なだけの道のりかと言えば決してそうではなく、ケチもついていた。前日夕方の段階で由布岳周辺の天気予報を見た限りでは、登山決行当日の天気は晴れ時々曇りないしは晴れ一時曇り程度の内容だったのに、豊後水道上で夜明けを迎えた時、さんふらわあは雨の中を走っていた。まめな情報収集を怠った恨みはあるが、事前に雨とわかったところでどうしようも無かっただろうし、あらためて情報を集めてみると、11時頃には晴れる予報となっている。少なくとも回復基調であることだけは間違いなさそうだ。最大の弱みは、9時から登り始めて山頂を踏むのは11時前になるという予定でいたことだ。天候の回復まで、山頂付近に踏みとどまれるのだろうか。

 大分の3月の気候がどのようなものか、今ひとつピンとこないが、登山口の風は冷たかった。眼前にそびえるはずの由布岳も、深いガスにまかれてその姿を現していない中、行けるところまで行ってみようと言う覚悟で、9:10、登山道へと踏み出す。なお、由布岳には西峰と東峰という二つの頂があり、最高所は西峰の方なのだが、山慣れない人間には手ごわい岩場を通過しなければならないということだったので、今回は最初から東峰一本に的を絞る。歩き始めは、のびやかな草原である。時期的には当然わくらば色の野原となっており、びゅうびゅうと吹き抜ける風が一層寒々しい。どうも予定では今日野焼きが行われるそうだが、足元はぐちゃぐちゃにぬかるんでいる。

 計画では、別府駅のコインロッカーに不要の荷物を放り込んでおくつもりだったのだが、時間の都合でそうは出来なかった。死重量となっているのは、街歩き用の靴、明日の着替え、本などだ。さほど重さはないものが多いのだけれど、今回は遠征であることからレインウェア等々を一式持ってきたのに加え、念のため6本爪アイゼンをお守りに持って来ているため、荷物がかさばること夥しい。デッドウェイトがなければ、もう少し心安く歩き出せたものを、と思う。鈍色の空の上では、地上よりも強い風が吹き荒れていそうなのも、何となく軽快さからはかけ離れた気分に拍車をかける。

 10分ほど歩くと、道はひとまず樹林帯に入る。直に風に吹かれることが無くなると、さほど寒い天候でないことが分かる。ゴロタ石の多い道ではあるものの、さほど歩きにくさはない。コース設定も易しく、無茶な傾斜のところをゴリゴリと登らされることがないので、むしろ歩き易い道なのかもしれない。残念なのはやはり天候だ。もともと薄暗いだろう樹下の道はますます暗くなるし、ちょっとした展望所風になっている合野越に至っても、本来何物かが見えるはずなのだろう切り開き側の視界は、真白く閉ざされている。合野越から少し進んで、第一登山者を発見。非常にメジャーな山であるはずの由布岳で、ここまで登山者を見かけないのは心細い。これが登山者の姿を見た最後とならなければよいのだが。
霧にけぶる由布登山口。奥に見えるのは名もない丘。

まずは樹林帯に入る。でも今は冬枯れ。

草原のような緩斜面に出た。

 
アクセス JR別府駅または由布院駅より亀の井バス「由布登山口」下車。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]43 大分県の山 山と渓谷社
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