則松〜華厳寺
谷汲の古刹を目指す
■標高:310m
■歩行時間:5時間
■登山日:2015年2月21日

    谷汲山華厳寺は、東海自然歩道岐阜県コースの山場にあたる妙法ヶ岳の山裾に建立された古刹だ。日光にある華厳の滝にも見られる「華厳」という言葉の意味は、「多くの修行・功徳(くどく)を積んで徳果が円満にそなわり、仏になること」(デジタル大辞泉)なのだそうだ。仏教の一派に華厳宗と言うのもあるが、天台宗のお寺である。ちなみに「妙法」と言うのは法華経の教えを指すことがある。「南無妙法蓮華経」の日蓮宗を連想しがちだが、天台宗も蓮華経との関係はあるらしい。やや蛇足だった。西国三十三所の結願寺であり、桜や紅葉の良い寺として、東海三県辺りではよく知られている。



 先週から連戦となるが、再度東海自然歩道に出撃。今回歩行を予定している区間は、岐阜市則松近傍から華厳寺までの区間だ。コースへの進入・離脱の関係でそうせざるを得なかったのだが、平地歩行の長い、4時間程度の短めのコースとなる。樽見鉄道の神海駅下車直後の神海地区からミイラ寺として知られる横蔵寺までは「谷汲・巡礼と信仰のみち」と名付けられたコースに設定されているものの、その前半までを歩く形だ。妙法ヶ岳を踏み越える道のりは長く、エスケープルートも存在しない。そして、どうにか山を越えたその先には細いバス路線しかなく、それが接続するのも三セク線と来ているので、クリアに時間はかけられなかった。

 午前8時少し前の岐阜駅前に立つ。下芥見での中断から都合で3度目の岐阜駅来訪となるが、今日は順調に行けば岐阜駅のこの場所に戻ってくることはないはずだ。ここから本巣市方面を目指す路線バスに乗ることで、前回の終了地点である則松近傍・犬塚バス停にたどり着くことができるのだけれど、こちら方面のバスは結局8時を待たなければ動き出さないのだった。そして、犬塚までは約30分。そこから岐阜刑務所近くの中断ポイントまでは、なんだかんだで20分近くは歩くことになるため、スタート時刻は午前9時となった。

 とは言え、歩き出しても特にこれというものもない岐阜市の郊外地区である。とりたてて山奥でもない。西に見える近くの山並みのもっと向こうには、白い雪山がのぞく。伊吹山かな?いや違う、違うな。伊吹山はもっと、ポコッとしてるもんな。寒っ苦しいな、ここ。

 そんな東海自然歩道は、奥伊吹の方向を目指すのではなく、むしろまっすぐ北へと延びていく。時に県道と交差し、川を渡りながら続く道のりには、鄙びた風情がある。だからと言うのではないだろうが、歩行開始からしばらくの間、道標は「雛倉」の地名を示し続ける。味わい深い山里の風情を期待して歩いてみたが、たどり着いてみれば何があるというのでもない普通の集落だった。砂漠の逃げ水みたいなものだと思った。終始こんな調子の道のりだが、近くの一般道用の道路標識には、根尾とか山県とか、山間部のイメージが強い名前がちらつくようになってきた。そんな中、道は鹿穴峠へと進む。

 東海自然歩道と設定された道は、県道を外れ伊洞集落の中へと入って行く。幹線道路から外れても相変わらずの舗装道だが、集落の外れ辺りまで来ると「このさき行止り」の表示が出されていた。一瞬たじろぐも、無視して突き進むと、鞍部近くで県道と交差した。なるほど、県道との接続部には車止めの鉄鎖が施されている。この付近が、岐阜市と本巣市の市境だ。10:32通過。岐阜刑務所からまっすぐ西に向かえば、ほどなく本巣市役所ではあったのだが、ずいぶん遠回りをした。東海自然歩道はもう一度県道から外れ、わずかの間土の上を行く道となる。下りきったところが、本巣市外山地区だ。近くではモンキードッグと言うのが活動しているらしい。南木曽にいた忠犬の同類なのだろう。湯ノ古公園の交差点で道は南方向に折れ、植林の中の谷川沿いにつけられた道を伝って神海(こうみ)を目指す。細い道だが、ダンプカーの通行が多く、ちょっと神経を使うところがある。

 鵜沼宿を起点にした回で、終了地点を芥見ではなく三田洞にしていれば、前回は三田洞〜神海、今回は神海〜横蔵寺の歩行になっていたのだろう。神海は、軽い後悔の念を呼び起こす地名だ。その神海の平地に出ると、前方に妙法ヶ岳と思しき山と、華厳寺があるらしきその前衛峰が見えるものの、道はまたしてもそこを巻くように続いて行く。しばらくは、国道157号を歩く。道沿いで目に付く薄墨桜やうすずみ街道といった名前に、根尾谷に入ったことが実感される。この道の果てに、昨年登頂を志して不首尾に終わった能郷白山があるのだ。その事実に、何とはなしに厳粛な気持ちになる。狭隘な谷筋で、決して視界も広くはないが、山の襞にわずかに覗く雪山がそれなのだろうか。ただ、近くの低山に積雪の気配は見て取れない。

 樽見鉄道の線路を渡り、神海橋で渡って根尾川の右岸へ。斜面崩落のため、橋を渡ってから岐礼谷の開口部付近に至るまで、なおも無骨な県道歩きが続く。まともな歩道のない川沿いの区間だ。まさしくエメラルドグリーンと言うのがふさわしい清流・根尾川のを眼下に見ながら歩くことができたのだけは、怪我の功名だろうか。岐礼から先は妙法ヶ岳の支尾根に取り付く道が始まる。入口には、その道のりの長さと厳しさを伝える看板が立っている。
おねがい 東海自然歩道歩行者の皆さんへ
 谷汲コースは、起伏も激しく途中で下山する支線もありません。体調・天候・時刻等すべて良好ですか?家族等にこのハイキングを告げてきましたか?慎重な行動で楽しいひと時を過し、無事お帰りください。
 コースタイムは、神海橋から華厳寺まで2時間、華厳寺から横蔵寺までで4〜6時間を要することになっている。実際は妙法ヶ岳の稜線歩きも3時間程度と踏んでいるが、この時間帯から3時間かかるとなると、帰りの足が微妙なことになるので、今日の旅は華厳寺で終わることにしている。臆せず突入。時刻は12:09。

 道沿いでは石垣が良く目につく。廃村跡なのだろうか。当初は緩やかに傾斜する舗装道が続いたが、稜線が近づくにつれ、さすがに土の登山道になった。傾斜もいくらかはきつくなったが、30分強で鞍部に到着。道沿いの指導標は、華厳寺まで2匱紊噺世数字を示しているが、同時に妙法ヶ岳まで歩くにしてもそれが3卍度の道のりでしかないことを示している。この地点あたりの指導標には「名鉄 谷汲駅」と言う表記が見られたのも印象的だ。今回の歩行の終点を華厳寺に持って行くことは、せっかく妙法ヶ岳に肉薄し。少なからず稼いだ高度を手放すことを意味するのだけれど、致し方ない。鞍部から10分ほど下り、奥の院・妙法ヶ岳への道を分けて、なおも下る華厳寺への道を進む。あまりそれらしい雰囲気ではないが、寺まではわずかに数百メートルの距離でしかないらしい。

 堰堤かため池か、とにかく深く大きく開いた穴の横にお堂があった。小さな、素朴なものだ。それなりに有名な華厳寺のお堂にしては素朴過ぎるものだが、そこを通り過ぎて間もなく、かすかな線香の匂いが風に乗って運ばれてきた。間もなく、華厳寺本堂だった。東海自然歩道側に続く通路は抜け道みたいなもので、境内側だとほとんど目につかないものなのだと思われる。私の存在は、普通の参詣者にしてみれば、本堂の袖みたいなところからひょっこり人影が現れたように見えたことだろう。本堂には、13:05の到着となった。

 「ゆく年くる年」に出てきそうなお寺だ。さすがに京都なんかの国宝・重文級の有名なお寺のような規模はないが、見るからに山寺と言うそのたたずまいは、正しく古刹の雰囲気をよく現わしている。すでに触れたとおり、春や秋に多くの人を受け入れるお寺と見え、はっきり言ってシーズンを外しているこの時期は、それほど参拝客も多くはないようだ。それでも、ひっきりなしに人がやって来る。

 この先の道のりも、決してバスの本数が多いとは言えない。そこが制約となるため、次回の再開ポイントは、ここ華厳寺とせざるを得ない。長い石畳の参道を下る。今日下って来た限りでは、それほど厳しい登りがなかったのは救いだろうか。

 門前にはうどん・そばを食べさせる店や、土産物の店が並んでいる。ずらりではなく、間に宿泊施設やお寺の関係の建物が並ぶため、やや散漫とした印象だ。何か面白いものでもあれば買って帰ろうかと思ったが、土地のお年寄りがやっている個人商店みたいなところがほとんどなので、冷やかしがしづらい。目についたものは、山野菜やこんにゃく、菊花石といった所だろうか。川魚の甘露煮の類があればと思ったが、お寺の門前であるだけに生臭はNGなのだろうか、意外なほどに見当たらなかった。

 バスを待つ間、来た道を振り返る。妙法ヶ岳に挑むタイミングはいつが良いだろうか。思索が形を成す前に、揖斐川町のコミュニティバスがやって来た。これで谷汲口駅へ向かう。運賃100円、乗車時間はわずかに10分ほどの短い道のりだ。たどり着いた谷汲口駅は、これぞ三セク・ローカル線といった雰囲気の小さな駅である。普段の18きっぷ旅で経巡るJRの駅は、痩せても枯れても元国鉄の駅であるためか、ここまで小さな駅はなかなかお目にかかれない。などと思っていたのだけれど、よくよく考えてみれば、飯田線の僻地駅とどっこいのような気もする。

 樽見鉄道は、乗車時に整理券を取って下車時に運賃を支払うワンマン方式を採用している。無人駅が連続するため、ある意味では当然のことなのだろう。しかし、起終点となる大垣駅はJRの駅と直結している。これが問題だった。どうも下車時に料金受領票と言うのを手渡ししていたようなのだが、これを貰いそびれた。その結果、駅の外へ出て切符を買いなおすのがひと苦労となった。まさに初見殺しの特殊システムである。
奥伊吹の山並み。

山村を行く。

舗装道を歩く区間が長いが、時折山中へと進んで行く。

あれに見ゆるは妙法ヶ岳?

根尾谷の奥地へと延びる樽見鉄道。

根尾川。やがて揖斐川と合流して伊勢湾に注ぐ。

道沿いの石垣。昔はこの場所に暮らした人がいたのだろうか。

華厳寺の本堂。

山登りに比べれば短い石段だが、やっぱり下るのは惜しい。

次回は妙法ヶ岳に挑む。

 
アクセス JR岐阜駅より岐阜バス「大塚」下車。
ガイド本 ふれあいウォーク東海自然歩道 東海版 風媒社
関連サイト

 



▲山これへ戻る