鵜沼宿〜下芥見・老洞峠
各務原アルプスの裾を行く
■標高:170m
■歩行時間:3時間10分
■登山日:2015年1月31日

    東海自然歩道の長い道のりの中、見せ場となるものはきっと方々にある。ただ、さすがに全編がクライマックスと言うわけにも行かず、コース上に点で存在するそれらの見せ場を、ただ淡々と結ぶだけの区間と言うのもまた、必ず存在している。犬山城を後にして、木曽川対岸の鵜沼宿に渡り、これをもって愛知県を脱出した私の東海自然歩道旅も、このクライマックススポットをただ結ぶだけの区間の一つに差し掛かろうとしていた。



 鵜沼宿を起点とした場合、一体どこまで歩くのが良いのか。考え方はいろいろある。中断・再開の容易さを求めてアクセス至便の地で終わらせるというのは考えられるし、歩き旅としての歯ごたえを求めてある程度の距離を進むというのも一つの手だ。鵜沼宿通過後、最初の中断ポイントとなるのは岐阜市郊外の芥見(あくたみ)だろう。国道156号との交点であり、本数の多いバス路線が通っている。これが、前者の基準に立った場合の中断ポイント。

 後者基準を優先させる場合が悩ましい。芥見を過ぎると間もなく、東海自然歩道は千鳥橋で長良川を渡る。自然歩道ウォークとしておさまりの良い構成を考えるとまずまずのイベントではあるのだけれど、長良川右岸に渡ってしまうと、岐阜駅まで戻るのが容易ではない。安易に行こうとすると、芥見まで折り返すことになるので、いかにももったいない。「では」と先に進もうとすると、次は三田洞弘法を過ぎたあたりにバス停があるものの、本数が少ない。もっと進んだ三田洞の街中辺り、国道256号には、もう少し多くのバスが停まるバス停もあるようだ。鵜沼からここまで来ようとすると、歩行時間は8時間コースとなる。短い道のりとは言えない。コースとしての白眉は長良川を渡ってから白山展望台に至る区間となるだろう。後半戦も半ばあたりといった所だ。展望台と言うほどだから、当然登りはあるのだろう。脚を残しておけるのだろうか。岐阜県のホームページからリンクを辿って行けば、一応岐阜県内のコース図は見ることができるのだが、これは直感的にコースの起伏を表現するものではなかった。体力の消耗度合が気にはなったが、芥見までだとこれと言う見ものがないこと、そしてこの区間を踏破した後のコース構築も考慮し、国道256号まで歩くことにした。

 8時半少し前の名鉄鵜沼宿駅に降り立つ。名古屋からそれほど遠くはないつもりでいたものの、なんだかんだと1時間半弱程度の移動時間はかかっている。前回、ライン大橋で木曽川を渡った後、岐阜県コースの道標の倹しさ故にコースをロストし、なんだか有耶無耶のうちに鵜沼宿駅にゴールしたが、強いて道を見失った所まで戻ることはしない。今日は、どうやら大安寺川左岸につけられているらしい東海自然歩道に合流するところから始めることにする。8:26、歩行をスタート。

 国道21号を東に向かい、間もなく大安寺川に差し掛かる。やっぱり、川沿いの道が東海自然歩道のコースであることを証明してくれるものは見当たらない。そんな中でも少しばかり北に行くと、中山道鵜沼宿の跡があった。自然歩道とは言いながら、東海自然歩道はこの種の史跡に寄り道していくのが好きだ。道がこの場所を通っているのは間違いない。ならばと辺りを見回してみると、木製の道標を見つけた。愛知県内コースの同種のものが擬木調のコンクリート製であったのに比べ、材質が材質なだけにかなり経年劣化が進んでいる。最初に建てられてから更新されていないのか、それとも昭和の内に一度くらいは作り変えられたのか、定かではないが、何が書かれているのかも非常に読みづらい。近傍には中山道鵜沼宿町屋館といった施設もあるが、鵜沼宿自体は規模の大きな宿場ではなく、現在も宿場の面影を残している個所はごくわずかである。そして東海自然歩道は、そんな小さな宿場跡を通り過ぎ、北へと向かう。

 しばらくは住宅地の中の道が続き、やがて左手の高台に進路を取る。その先も家並みが続いているのは違いないのだけれど、大安寺の前を過ぎる辺りから、道は山間部へと入って行く。ごく当たり前に車も通る、舗装された道ではあるものの、緩い登りが続く。道すがらには、追間不動とか、ふどうの森とか、各務原アルプス縦走時の最終盤に見かけた地名も目につく。この先しばらく、芥見に至るまでの区間は、各務原アルプスと呼びならわされる、各務原市と関市の境に位置する山地の西麓を伸びている。ふどうの森方面への分岐となる多賀坂辺りが峠道の最高所になっていて、その先はまた下りが始まった。東海自然歩道は右手の林に引き込まれていく。下り切った辺りで、ようやく舗装道が終わった。各務野自然遺産の森と呼ばれるエリアの一部に入ったらしい。時刻は9:21。間もなく、鼻白むほどに整備された公園に出た。これが自然遺産の森の核心部だった。緑豊かと言えばそれは間違いないのだが、愛知県内コースの都市近郊部が、それでも里山を縫っていたのを思えば、かなり人手の入った緑地だ。

 道は園内散策路のようにして先へと続く。さすがに自然遺産の森を抜けたあたりからは無愛想な林道の顔に戻った。寒洞池まではわずかの距離だった。多分、調整池か何かなのだろう。護岸工事も抜かりなく施された池ながら、小さな水鳥も憩っている。自然歩道はこの池を北に迂回する。池沿いの道はわりと狭く、本当にこの道で良いのかと不安に思えてくる。この付近は各務原カントリークラブに隣接しているため、どうかするとゴルフ場の中へと引っ張り込まれそうだ。それにしても、この辺りを歩いているときに、裸のゴルフクラブを肩に担いだおっさんと何回かすれ違った。ゴルフ場近くなのと何か関係があるのかどうかは定かではないが、何となく「プロゴルファー祈子」を思い出す。いきなり発狂して殴りかかって来やしないか。妄想に襲われる。まあそれはないとしても、やたらめったらその辺で振り回したりはしていそうだ。

 寒洞池直後の一区間は、土の上に木段の設置された、今日初めての山道らしい山道だったものの、すぐに車道に戻る。福祉施設やゴミ焼却場のある、生活臭の希薄なこのエリアの地名が須衛。これまた各務原アルプス縦走の時に通りかかった地名だ。焼却場も、当時山上から見下ろしている。今日は、あの時の稜線を麓から見上げている。アルプスと言うにはあまりにも低い峰々だが、露岩の連なる近隣の山容は、変化に富んでいて面白い。緩い坂を登って行き、さらに下り切った先が県道17号の須衛町1丁目交差点だ。まさに立ち止まるクロスロード。各務原アルプスの旅のスタート地点となった桐谷坂へのとっつきとなる交差点である。左に折れれば各務原の駅にたどり着く。今日は県道を横断し、芥見の前に控える各務原・岐阜の市境となる峠、老洞峠に向かう。さまようワインディングロードは、その先に控えていた。

 それにしても、覚悟はしていたが意気の上がらない道だ。自然歩道とは言いながら、どうも都市部を迂回するために丘陵地を通っている感が強すぎる。歩き始めからおよそ2時間。疲れたとか足が痛いとか、そういうのは全然ないのだが、モチベーションの維持が難しく、今日の行程は芥見で打ち切ろうかと思い始める。タイミング悪く?用事を思い出したこともあって、峠道の途中で方針は確定した。

 タイミングが悪いと言えば、老洞峠の岐阜県側で土砂崩落があったとかで、峠もわりと上方まで登ったところで通行禁止の看板が出ていた。どうしたものかと、看板の前で思案していると、向こうから人がやって来る。犬の散歩中の近所の人と言う風体のそのおばさんは、私を見咎め、「山歩きか?」と誰何してきた。その通りであると答えると、この先、車はまだ通れないが歩行者はもう行き来ができるようになっていると言う情報を教えてくれた。バリケード程度の仮設的なものとはいえ、道はバッチリ封鎖されているような気がするのだが、行けるところまで行ってみようかと思った。よしこの道が通行不能であったとしても、右手にそびえる権現山の登山道は、結局芥見の方に下っているはずだから、山側に逃げると言う手もある。

 不思議なもので、老洞峠の岐阜市側にもゴミ処理場がある。大きな工場を思わせる建物だが、少しずつ高度を下げてこれに近づくにつれ、本物の工場のような音が聞こえてきた。外観はともかく、やってることはゴミの焼却のはず。こんな音が聞こえてくるものなのだろうか。気がかりを感じながら下って行くと、敷地の片隅で重機が動いている。事前に情報のあった土砂崩れとつながるものなのか、確かに土を運搬しているようである。で、やっぱり道の途中に立ち入り禁止の看板はあった。ただ、道が崩れて無くなっているとかではなく、おばさんの教えてくれたとおり、この先通り抜けるだけなら通り抜けられそうだ。とは言え、実際現場近くを歩いて行くと、作業の人から怒られたりするのではあるまいなと、身構えながら行くと、そんなこともなく通り過ぎることができた。さほど高い峠でもなかったが、迷いを抱えながら歩いたためか、長かったような気はする。後を振り返る。

 付近は各務原側と同じような雰囲気の山間部ではあるが、人の生活臭は先ほどより強く、いかにも郊外地区という風情のあるエリアである。ここはもう岐阜市芥見地区。道端の「東海自然歩道案内図(岐阜市コース)」と題された古ぼけた地図がそれを物語る。この先、下芥見にはかつて鉄道がとおっていたらしい。名鉄美濃町線と言う路線らしく、2005年に廃線となったようだが、あまりなじみのない地域の話であるだけに、全く記憶にない。頻繁に更新されるでもない看板は、歴史の証人としてそこに立っている。

 郊外から道なりに歩いて行くと国道156号までは思いのほか近く、かくて華には欠ける今回の東海自然歩道の旅は、予定よりも短く終わりを迎えた。岐阜バス東芥見停にたどり着いたのが11:39。次は、谷汲口あたりまで進みたいものだが…。
現在の鵜沼宿。

緑は豊か。でもちょっと公園感が強過ぎるかな。

寒洞池。

郊外へ追われる迷惑施設の図。裏手の山並みが各務原アルプス。

頼りなさげな峠越えの道。

岐阜側も各務原側も山間の雰囲気はさほど変わらず。

芥見。何の変哲もない地方都市の郊外。

 
アクセス 名鉄鵜沼宿駅より。
ガイド本 ふれあいウォーク東海自然歩道 東海版 風媒社
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