大山・その1
山陰の秀峰に登る
■標高:1729m
■歩行時間:3時間40分
■登山日:2014年10月11日

    各地方には、その周辺を代表する山みたいなのがあって、中国地方で言えばさしずめ大山(だいせん)がそうなのだろうと思う。鳥取県西伯郡大山町に位置し、旧国名で言うと伯耆国にあたるため、伯耆富士の二つ名も背負っているのだけれど、間近で見てみると富士山に似つかない峨々とした山容である。そのため2ちゃんねるの山界隈では、日本国内で最も危険な山の名をほしいままにしている。あまり活動の活発でない火山なのだけれど、非常に脆く、かつて縦走に用いられていた主稜線が崩壊を続けており、ペラッペラのグズグズになっているので、ここのことを指している。当然にして立ち入り禁止措置が取られているものの、ネットにはどこか自慢げにその縦走体験をつづった山行記録も公開されている。下馬評によると、この縦走路に入った際に生死を分かつ究極のものは、技術や錬度ではなく、運なのだそうだ。だいぶ脱線したが、富士山を思わせる姿をしているのは主に西から見たときの話である。想像するに、海上からもよく目立って、北前船なんかの廻船の往来に伴ってその声望を高からしめたもののような気もする。



 私の登山傾向からして、そういう歴史があって有名な山を優先的に登りたくなる。各地に名山は数々あれど、タイミングの問題から、登山を思い立ってなかなか実現に至らない山がある一方、大山は構想から実現までが比較的短期日で済んだ山である。本格的に登ろうという決意を固めてから、同一シーズンの内に実現にこぎつけた。前述したとおり、危険なところのある山なのだが、最高峰となる1729mの剣ヶ峰へはその危険なルートを通らないことにはたどり着けないため、低難度の夏山コースをたどって登れる1710mの弥山を目指すことにする。ことにするというか、そうするしかない。

 前夜から米子市入り。宿泊所は米子駅前のスーパーホテルである。

 大山行のバスは、米子駅前から出ている。「山陰の地方都市だから」という今にして思えばよく分からない理由で油断していたものの、朝になってみれば結構たくさんの人が大山の登山口となる大山寺行のバスを待っている。結果、大山寺までおよそ50分の道のりを、ずっと立ったままバスに揺られて行く羽目に。この路線、途中の停留所にも止まって行くのだけれど、乗客は9割がた大山登山の客である。なお、山と書いて「せん」と読む山は中国地方に多く、蒜山、氷ノ山なんかがそうである。行きがけのバスの中で見た情報によると、「仙」に通じる仏教的な読みなのだそうだ。

 大山寺は、奈良時代の開基と言われる古刹だ。その歴史は1300年にも及ぶが、都を遠く離れた辺境の地だったこともあってか、一般に知名度は高くなく、歴史的な事件の舞台となったというわけでもない。ある意味で大山寺が最も存在感を増したのは、南北朝時代から始まる戦乱の時代であり、この頃になると比叡山延暦寺などとも並び称されるほどの強大な僧兵を擁し、尼子氏や毛利氏などの有力大名の崇敬も厚かったという。修験道場として、やはり同程度には古くから開かれていたと思われる大山は、大山寺を拠点として登られていた。バスを降りると、大山寺の山門へと続くまっすぐな参道が伸びており、大山寺境内を経由しても、またそれとは別に大神山神社を経由しても弥山の頂に立つことはできるが、一応夏山登山道へは、参道の途中を右折することになる。沿道の店には「だんだんと」と書かれているところも多いが、焦らずじっくり段々と登って行こうと思う。それにしても驚いたことには、参道を少し外れたところに山道具屋であるモンべルの店舗があったことだ。修験のイメージが強かったが、大山周辺はこの地域のアウトドアのメッカともなっている。修験の山だけどメッカである。

 8:35、夏山登山道登山口から登山開始。登山道とは言いながら、登り始めは大山寺の境内地を思わせる石段が続いている。実際に、一合目前後までは寺院関係の遺構や現存建造物などが目につくのだけれど、そこから先は木段が始まる。そしてその傾斜はなかなかに厳しい。今回のガイドに使っている本は、山と渓谷社の「関西周辺の山」なのだが、それによれば三合目付近までは緩やかな登りが続き、四合目付近から急登が始まることになっている。何かの間違いではないか。まだ道はせいぜい二合目に差し掛かろうかと言うところでしかない。

 しかし9時を少し回って四合目に差し掛かろうかと言うあたりからさらに段々と登りがきつくなり、気が付けば垂直の壁と錯覚しそうな坂を歩いていた。その割に息が上がらないのは、ここが最近登っていた山ほどには高高度でないためなのだろう。焼岳、木曽駒、西穂独標といずれももう少しで3000mと言う高さがあった。やっぱり空気が薄かったのかもしれない。特に休憩の必要もなく、登り続ける。が、登山者の多さだけは北アルプス並みだったりもする。よくよく考えてみれば、大山も百名山の一つには数えられている。二十代程度の若々しい層はやや薄い気がするが、特に夏山登山道はさほど長いコースでないこともあって、子供から老人まで、多くの人が登っている。人の流れは停滞しがちで、ペースはあまり上がらない。

 標高にして1400mほど、六合目あたりまで行かないと、登山道は展望に恵まれない。樹林は段々まばらになって行くが、その変化を上回る早さで、頭上を吹き抜ける風の音が強さを増していく。考えてみれば、台風が近づきつつあり、下界でも強風注意報が出されているのだった。まだ台風本体は沖縄の南海上あたりを、ゆっくりとしたペースで進んでおり、他方で山陰地方は晴天に恵まれている。直接的にその影響を受けた風ではないのだろうが、伯耆富士の名が物語るように、大山は独立峰でもある。本家富士山の厳冬期が暴風の巣になるのと同じく、風を遮るものがないために、山の周辺の大気が唸りを上げているようだ。その様に、不安を催すほどに。
間近で見ると意外に彫りが深い大山。

大山寺を横に見ながら先に進む。

石段、そして木段がしばし続く。

1時間ほど登って、展望が開けてきた。

標高2000mに届かない山だが、上部の木の丈の低さは高山を思わせるものがある。

 
アクセス JR米子駅より大山るーぷバス「大山寺」下車。夏山シーズン中の土日運行。ただし、多客期は毎日運行。
ガイド本 改訂新版 関西周辺の山
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