木曽駒ヶ岳・その2
聖職の碑を訪ねて
■標高:2956m
■歩行時間:6時間
■登山日:2014年9月14日




 千畳敷にやってくるのは、昨年の6月末以来、1年余りぶりということになる。初夏と言って良いだろう6月の終わり、この場所はまだ雪にまみれていて、アイゼンをつけた本格派の岳人が歩いている程度だったが、さすがに9月のこの時期となると、夏道は完全にその姿を現している。というか、下手をすればもう1か月余りでまた雪に閉ざされるくらいなのかもしれない。先行して山上に上がっていた人々の登山はすでに始まっていた。後を追うようにして私も、木曽駒の頂を目指す。時に8:25。

 道は、駒ヶ岳神社の前あたりから始まって、宝剣岳直下の千畳敷カールを突っ切り、宝剣岳と伊那前岳を結ぶ稜線・乗越浄土へと登って行く。カール内の道はほぼ平坦で、その位置づけは散策路や遊歩道程度のものらしい。時期が良ければ花をつけた高山植物の群落程度は見られるのかもしれない、そんなのびやかな平地ではあるが、10分程度の歩行で取りつくことになる山壁は、なかなか厳しい登りだ。ひとまずのゴール地点となる稜線は目の前に提示されているのだけれど、急斜面をジグザグに折り返しながら進むことになり、第一印象ほどには甘い道ではない。また、道がそんなに広くない中、蟻の熊野詣よろしく登山者が殺到しているため、スイスイ登るというわけにもいかない。熊鈴があちこちでチリンチリンと音を鳴らすが、果たしてこれだけ人の多いところにクマが出るのか。そもそもこのあたりにクマが生息しているのか。生息しているとして、人間がエサを持っていることを学習したクマなのではないか。いろいろ腑に落ちないまま、山上の交差点となる稜線上に出たのは8:55。

 実はここが思案のしどころであった。伊那前岳はともかく、宝剣岳に寄って行くか行かまいか。木曽駒は、アルプスの山にしてはなだらかな山容の山で、ダイナミズムみたいなものには欠けそうだ。一方、峻岳そのものといった宝剣岳の山容には心惹かれるものがある。アクセントとして寄って行くという選択肢は当然に考えられるし、そもそも今回の山行の参考にしているガイド本が宝剣岳に寄るコースを設定している。が、宝剣岳への道は、長くはないが険しいという。ちょいちょい滑落事故も発生しているのだそうだ。危険の少ないところまで行くだけ行って引き返そうと思わないではなかったが、計画に遅れが生じ始めて浮足立った状態で行くのは得策ではないかもしれない。宝剣は、帰り道で体力と時間に余裕があったらにしよう。今日のコースは周回ルートとなるが、それでも帰路でこの場所を通る。宝剣山荘の裏手を通り、先を目指す。

 ガイド本に載っているコース概念図や地図を見ていると、なんとなく宝剣山荘まで来れば駒ヶ岳まではあとわずかと錯覚してしまいそうになるが、これが曲者である。ちゃんと等高線まで注視していると、途中で中岳を登った後、100m程度高度を落として、もう一度駒ヶ岳の山頂まで登り返していることがわかる。アップダウンの少ない巻道はあるものの、全般にハイキング程度の道が続くメジャールートに比して、かなり険しい断崖の岩場が続く。技術がなくても通過はできるが、足を踏み外せば死ねるルートで、少なくとも、「標高のわりに簡単に登れる」という発想から木曽駒を目指している人間が通るべき道ではない。登り返しが億劫ではあったものの、おとなしく中岳を経由し、頂上山荘をやり過ごして駒ヶ岳山頂を進む。頂上山荘という名前の由来は、駒ヶ岳の頂上以外に考えられないのだけれど、山荘のある最低部から容易に視認できるその頂までの高低差は、かなりのものがある。ただまあ、そんなに急な道ではないので、一息に登り切り、9:40に木曽駒ヶ岳山頂へ。

 先にも触れたとおり、木曽駒の山容はなだらかで、山頂も比較的広い。伊那と木曽、二つの駒ヶ岳神社の社は、多くの山頂神社がそうであるように決して大きなものではなく、サイズ的にはむしろ標準的なものだが、それが二つあってなお多くの登山者が憩えるほどの山頂だ。2956mの山頂は、周辺の山々では最も高く、当然森林限界も超えていることから360度に展望が利く。もっとも、今日はいささか雲が出ている。と言うか、3000m前後の山の頭の部分は軒並み笠をかぶったようになっている。全体的には晴天と言え、青空の覗いている部分では、いかにも高山らしい深く濃い青が目に染みるが、南アルプス、北アルプスはともに雲に覆われていた。比較的近くに位置するはずの御嶽山ですら同様だ。見えるのは、お仲間であるところの中央アルプスの山々ばかりである。宝剣岳、伊那前岳、将棊頭山。南の方にわりと険しい立ち姿を見せる山が見えるが、私の知識ではどこの山なのか特定しきれない。位置関係からすると、何となく、檜尾岳のような気はする。とすると、空木岳や南駒ヶ岳は雲に隠れていることになる。山頂には、どちらの方向に何が見えるのかを示した円筒形の標識(正式名称不明)もあるのだけれど、どうも摩耗してしまっていて、ものの役には立たない。ブツを見ていた山慣れた風情のオヤジが、「北アルプスは雲に隠れている、槍や立山は見えない」と言って、訳知り顔で、居合わせた山ガールに講釈を垂れていたが、指差したその方向には、おそらく甲斐駒ヶ岳があった。あるいはせいぜい八ヶ岳であろう。

 ともあれ、木曽駒から南の木曽山脈は険しい地形を呈しているようだが、これから私が目指そうとする将棊頭山方向には、比較的なだらかな稜線が続いているようだった。薄い空気のためか、睡眠不足のためか、はたまたここのところの鍛錬不足のためか、思いのほか消耗を強いられている今回の山旅にあっては、その事実が何となく心強い。山頂には20分ほどとどまり、その後「聖職の碑」を目指して再出発した。

 木曽駒山頂から将棊頭山を目指して進むコース上からは、それまでの喧騒が嘘であったかのように、登山者の姿が途絶えてしまった。前述したとおり、こちらの方角から木曽駒山頂を目指すコースは、技術的にはともかく、歩行時間の長いロングコースである。黎明と共に登山口から動き出したとして、かなり速足の人であっても、今このタイミングで私とすれ違うのは難しいのかもしれない。そしてあれほどの人がいた木曽駒側からこちらを目指す人もまた、かなり限られているようだった。他の高山では考えられないほどに、弛緩した体型の登山者が良く目につくのが木曽駒の一つの特色であるように思えたが、これから先、私とすれ違う形になる人たちは、本物の岳人と言えるのかもしれない。

 山頂から「聖職の碑」こと遭難記念碑まで、手持ちの資料ではズバリのコースタイムが出ていなかった。ただ、濃ヶ池への分岐までがおよそ1時間、そこから将棊頭山までが40分となっている。今回は結構消耗しているため、コースタイムに近いペースで歩くとして、1時間20分ほどを要することになるのだろうか。
よく見るこの構図は、千畳敷から宝剣岳を見上げたもの。木曽駒の頂ではない。

乗越浄土を目指す。

乗越浄土。

宝剣岳遠望。

中岳を下った後、最後の坂を登り切り…。

山頂に到着。

わりと広く平坦な山頂だ。

檜尾岳?南駒とかのビッグネームは見えていないようだ。

 
アクセス JR駒ヶ根駅より中央アルプス観光路線バス「しらび平」下車。ロープウェイで千畳敷駅へ。夏山シーズン休日のロープウェイは数時間待ちもザラなので要注意。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]15 長野県の山 山と渓谷社
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