木曽駒ヶ岳・その1
聖職の碑を訪ねて
■標高:2956m
■歩行時間:6時間
■登山日:2014年9月14日

    今更ながらに、中央アルプスは地味である。南北両アルプスに比べると、山脈を構成する山々の高さが少しずつ低いし、木曽と伊那、二つの人里にも比較的近いことから、人跡未踏の近寄りがたい荘厳さを備えるに至っていないせいなのかもしれない。ちなみに、中央アルプスというのは通称名みたいなもので、学術的には木曽山脈と呼ぶのが正しいのだと思うが、つまりは伊那の山ではなく木曽の山ということになっている。そんな、どことなく地味な印象を拭いきれない中央アルプスだが、その盟主となれば、まず木曽駒ヶ岳ということで異論はないのだろう。標高は南アルプスの甲斐駒ヶ岳よりわずかに低いものの、伊那では二つの駒ヶ岳を西駒・東駒と呼ぶのだそうだ。



 木曽駒は3000m近い標高を誇りながら登りやすい山であるとされる。2600m以上の高所まで、ロープウェイが運び上げてくれるためだ。そういうわけで、私も早い時期から登頂をもくろんでおり、どうかするとアルプスデビューが木曽駒となる可能性もあった。それがそうならなかったのは、「間」だけの問題である。どうも間が悪かった。行く度、あるいは行こうとする度、何らかの齟齬があって計画が実現しなかった。それが今回、どうやら実現のチャンスを得た。そこで木曽駒に登るのは既定事項として、新田次郎の小説の題材となった「聖職の碑」まで足を延ばしてみることにした。

 ただし、大正2年(1913)に発生した箕輪の中学生(当時は中箕輪高等尋常小学校)の木曽駒登山にかかる大量遭難を記念するこの碑も、実際に建立されているのは木曽駒の山中というより、隣接する将棊頭山(しょうぎかしらやま)である。件の遭難事故が発生した登山では、箕輪側から木曽駒を目指す関係上、この山を経由していた。木曽駒山頂からは直線距離で3劼曚匹あり、ついでで行くには少し遠い。一般的なガイド本に表記される、ロープウェイ発の木曽駒登山コース概念図にもまったく表示されない位置だったので、研究用に昭文社の山と高原地図を購入。現在でもロープウェイを使わない木曽駒登山のクラシックルートとして、桂木場ルートと呼ばれるものが、将棊頭山を通って、縦走の形で木曽駒を目指している。中箕輪高等尋常小学校の一行は、このルートから濃ヶ池(のうがいけ)、駒飼ノ池を経由し、宝剣山荘付近にあった伊那小屋にたどり着きはしたが、小屋は使用に耐えない状態となっていた。ついには、ここで恐慌状態に陥り、嵐の山中に四散したのである。そしてめいめいに往路を引き返そうとする中、それぞれの明暗が分かたれている。彼らの歩いた道のりは、木曽駒山頂を目指すだけなら明らかに迂遠な経路だが、暴風雨を逃れて避難小屋に逃げ込もうとしたのか、もともと小屋泊りで山頂を目指す計画であったのか、小説を読むだけでははっきりしない。

 さて、ロープウェイだが、シーズン中の木曽駒ヶ岳では、このロープウェイで大渋滞が発生することもよく知られている。山麓駅ということになるしらび平駅までたどり着いたとしても、そこからロープウェイに乗るまでの待ち時間が2時間とか3時間になることもザラだという。敬老の日が絡む三連休は、夏山シーズンというには遅いし、紅葉にはまだ早い。どの程度の人出があるのか、皆目見当もつかないが、そういういわくつきの場所であるため、前夜から出発して、周辺で仮眠をとる方針にした。中央道を走り、恵那峡SAで夕食を摂った後、次に来るSAであるその名も駒ヶ岳SAで眠りにつく。木曽駒を目指す場合、駒ヶ岳SAを過ぎた直後の駒ヶ根ICで高速を降りることになる。名古屋からは意外と近く、2時間程度の距離だ。

 9月の伊那谷の夜は、かなり冷え込む。少なくとも車中で寝ようというとき、晩秋や初冬の名古屋の日中並みの格好をしなければ我慢できないほどに。今回、山上の気温がかなり低いだろうことは予想されたため、防寒着の類はダウンジャケットを用意するまでだったのでそれでしのげたが、足回りが意外と冷える。結局、さほど眠れないまま翌朝5時を迎え、行動を開始する。が、これが良くなかった。

 ロープウェイの駅があるしらび平には、一般車が入ることができない。従って、マイカーで木曽駒にやって来た場合は菅ノ台バスセンター付近にある駐車場に車を止め、バスに乗り換えることになる。この駐車場には以前来たことがあるが、普通の駐車場である。夜明かしの場所として考えないでもなかったが、若干標高が低くて夜の冷え込みが緩く、コンビニがあって、きれいなトイレがあって、明るくて人気のあるSAで寝た方がいろいろ安心だろうと、夜が明けてからここにやって来た。しかし、5時を少し回った時点ですでに満車。この時期、原則ロープウェイの始発は7時に設定されており、それと連動する路線バスは6時少し過ぎにこのバスターミナルにやってくるはずなので、これで十分だろうと思っていたのだが、甘かった。

 結局、菅ノ台の常設駐車場より少し山手に設置されていた臨時駐車場に回されたのだけれど、問題は車の置き場所の話だけではない。定刻よりも早く動き出した路線バスは、下手の菅ノ台で乗客を満載して来るため、臨時駐車場の客はなかなかバスに乗れない。バスに乗り遅れると、ロープウェイ駅への到着が遅れる。行楽シーズンの三連休であるためか、60人乗りというロープウェイはフル稼働していたのだけれど、バスの乗客運搬能力より劣るため、私がしらび平駅に到着したときには、すでに待ち時間が発生していた。様子を見ている限り、定刻に縛られず任意のタイミングでしらび平まで上がれるタクシー利用が、ロープウェイへの接続を考えた場合に最も有利であるように思えた。

 結局、一番早い7時の便で山上の千畳敷まで上がる計画は画餅に終わり、2612mの高所にまで上がれたのは8:21。この読み違いは後々まで祟ることになる。多くの登山客が動き始めたまさにそのタイミングで行動を開始することになったため、下山時には山道で渋滞にはまってペースを稼ぐことができず、さらには下りロープウェイで1時間強の待ち時間が発生。あわよくば下山後の周辺観光をと考えていたのも、すべて計画倒れとなった。
バス待ちの行列。

しらび平駅。

 
アクセス JR駒ヶ根駅より中央アルプス観光路線バス「しらび平」下車。ロープウェイで千畳敷駅へ。夏山シーズン休日のロープウェイは数時間待ちもザラなので要注意。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]15 長野県の山 山と渓谷社
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