鳥居峠・その1
旧中山道を歩く
■標高:1197m
■歩行時間:2時間
■登山日:2014年6月15日

    峠が好きだ。趣味人の私にしては珍しく、そんなに熱心に活動している分野ではないものの、過去に越えたことのある野麦峠や天羽峠、そして安房峠はその所産である。県道だったり、現役国道だったり、旧国道だったり、その属性はバラバラなのだけれど、これらはいずれも車で越えられる峠だったし、そのようにして来た。これに対し、古道系の峠と言うのももちろん興味があって、馬籠峠越えの回はこちらにカテゴライズされる。今回は、馬籠峠と同じく前々から興味を持っていた峠・鳥居峠に挑むことにした。馬籠と同じく木曽路の峠である。馬籠峠では峠の前後に加え鞍部近くにも宿場町を開かれていたのに対し、鳥居峠は奈良井宿と藪原宿の間に横たわる峠に過ぎないが、中山道の難所のひとつとして知られ、中央分水嶺の一部である。



 現在の行政界で言うと、塩尻市と木祖村の境と言うことになる。名古屋からだと、中央線一本で行けるには行けるが、結構遠いし、18きっぷ旅でおなじみ神領始発松本行きを使わない限り、基本的には中津川で乗継をせねばならない。特にこの乗継が不便なため、特急を使わない場合、早朝に出発しないと峠の麓に着くのが正午近くになってしまう。反面、全区間を青空フリーパスで移動できる利点もある。まあそんなわけで、6:23の千種駅発中津川行きに乗り込むため早起きをした。5時起きなので、名古屋駅まで自転車で走るパターンを思えばまだしも楽なのだが、それでも辛い。定刻より早めに千種駅に到着することはできたものの、この春頃から青空フリーパスを券売機で買えなくなったようで、現地ではみどりの窓口で買うように案内されている。改札ではなく、あくまでみどりの窓口なのだろう。同じ千種駅でも地階から正面入り口に移動しなければならないのが億劫だ。若干値上がりもしている。

 今回は、藪原宿側から鳥居峠を越えることにする。最寄り駅となるのは薮原駅だ。奈良井から行こうとすると、一駅松本寄りの奈良井駅が最寄り駅となる。電車で一駅なので大した違いではない。ただし、木曽路を行く中央西線は単線でこそないものの、鈍行列車は頻繁に特急の追い越し待ちをが発生するため、千種から薮原までの移動には3時間ほどを要する。

 今風に言うと、木祖村の薮原地区、と言うことになるのだろうか。かつての藪原宿は今では国道19号沿いの町となっている。国道沿いには特に注目に値するほどの店舗などがあるわけではなく、至って普通の田舎である。旧宿場は国道から離れた場所に当たるが、妻籠や馬籠、そして隣の奈良井のように、旧道時代を思わせる古民家などが軒を連ねているわけではない。昔ながらの工芸品として、「お六櫛」というのが売られているのが目に付く程度だ。その名は御嶽教の六根清浄から来ているという説もあるそうだ。ただ、山で「オロク」は験が悪いなあなどと思う。それより、現地に着くまであまり意識することのなかった部分なのだけれど、過去に二度、伊那谷から野麦峠あるいは上高地・安房峠を指して奈川に抜ける際に通った県道は、薮原で国道から分岐しているのだった。そちらの方が感慨深い。

 鳥居峠を目指す道は、こんな宿場の町並みの外れに残されていたが、その道すがらには「飛騨街道追分」と称される分岐点があり、往時もやはり、この辺りから飛騨を目指す道が始まっていたのだそうだ。野麦峠を越えた女工も、おそらくはこの道で中山道に合流し、鳥居峠を越えて岡谷に至ったものと思われる。梓川村側から松本に抜けていたのではないと思う。いずれにせよ、その古道の跡は、解説板があっても現在では所在が良くわからないような有様だ。尾州御鷹匠役所跡などというものもあるが、こちらも建物は何も残っていない。

 鳥居峠を越える交通路と言うのは、昔からいろいろが存在している。今でこそ、鉄路も国道もトンネルでこの峠の直下を抜いているが、昭和の半ばに至るまで、自動車道は峠越えの道だったようである。その名残か、現在も低規格の車道は峠の鞍部を越えて奈良井を目指しており、徒歩道たる旧中山道も、この道と要所要所で交差しながら峠を越えていく。ちなみに、この旧道は中部北陸自然歩道のコースにも組み入れられている。

 木曽路の山は、クマの徘徊するエリアとなっているところが珍しくないようだ。木曽福島の城山に登った時、登山道に入るタイミングで金属製の鳴り物をカンカンと打ち鳴らす装置?があったが、ここ鳥居峠越えの道にも、同じ目的で設置されたクマ除けの鐘がある。念入りに人間の存在をアピールし、古道に進む。歩き始めは石畳となっている。街道時代のものがそのまま保存されているというよりは、近年になって復元されたもののような気がする。そしてその石畳も、そんなに長くは続かない。間もなく、土の道になる。ただ、痩せても枯れても五街道の規格を保っているためか、下手なハイキングコースよりずっと道幅が広い。そして、実用性重視の交通路であったためか、斜度もきつくはなく、楽に歩ける。一方で、決して眺めの良い道ではない。わりと密度濃い木々の間から、抜けるように青い空が覗く。昔は多くの旅人が行きかったであろう道には、今となっては人の姿もない。薮原駅に降り立ったときは、たぶん古道ハイクをするのだろうなという母子連れの姿があったが、薮原宿で抜き去った後は、人に出会うこともない。山道はただ、ヒグラシの鳴き声で満たされている。入梅後とは思えない、さわやかな山道である。クマがちょっとだけ心配だ。
小さな旅の始まり、藪原駅。出入口の傍らには「木祖村史跡鳥居峠登り口」とある。

なんてことのない道路標識が、古道の名残を伝える。

鳥居峠の方を見上げる。

30分ほど歩いて峠越えの道に差し掛かる。

あまり眺めはよくない峠道だが、時折藪原の町並みが見える。

 
アクセス JR藪原駅より。逆コースの場合はJR奈良井駅より。
ガイド本 歩いて旅する中山道 六十九次の宿場&街道歩きを楽しむ 山と渓谷社
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