京都一周トレイル・東山コース・その3
東山三十六峰を辿る
■標高:848.3m
■歩行時間:9時間
■登山日:2014年10月12日




 京都一周トレイル・東山コース序盤への挑戦から4か月がたったころ。秋の登山旅行の的にしたていた大山を攻略した私は、その帰途に京都に宿泊することにしていた。そして、どうにか20時に京都まで戻ることができた私を待っていたのは、意外な情報であった。先日来その動向を気にしていた台風の到来が遅れており、どうやら明日一日程度は京都の天気がもちそうだというのである。天佑と言うのか悪運と言うのかは定かではない。京都まで戻った先の予定は、鞍馬や大原と言った奥地にしけこむか、国立博物館、東寺あたりに行くかといった所を考えていたが、天気が大丈夫と言うのなら、やり残した京都一周トレイル・東山コースに乗り込もうではないか。

 7:52、地下鉄東西線の蹴上駅で下車。地上に出てすぐのねじりマンボをくぐり、琵琶湖疏水をまたぐ大神宮橋に向かう。言葉の意味はよく分からないが、これをねじったマンボと言わずして、何と呼ぶのか。

 大神宮橋のあたりを行きつ戻りつしたのは、梅雨前だったか、入梅後だったか、それは定かではないのだが、一つ間違いないのは、やはり今日のような曇り空が広がっていた。強いて言うなら、雨が降り出すのは時間の問題と言う雰囲気だった前回と違い、今回はどうにか今日一日雨が降り出すことはなさそうだということだった。こんなところまで来てポコポコをやった後、8:04に今日の行程を開始。伏見稲荷の裏山である稲荷山をスタートし、粟田口を経て蹴上まで歩いた前回に引き続き、今日はこのまま大文字山へと向かう。蹴上はコースのほぼ中間地点に相当するため、ここから後半戦が始まるわけだ。その後半戦には、大文字山のほかに比叡山が控える。

 とは言うものの、30勸幣紊傍擇崚貉灰魁璽垢癲∩鞍召噺緘召巴論や気候が大きく変わるでもなく、おまけに天気まで似たような感じとあっては、自然とコースの雰囲気も似通ったものになる。ごくありふれた雑木の繁茂する林が広がる、これぞ里山の道である。蹴上から先、大文字山頂へは登り一方の道であるかと思いきや、小さなアップダウンが繰り返される。一晩寝たこともあるが、昨日の大山は、ほとんど堪えていない。もともと稲荷山から比叡山まで一日で歩き通すことを考えていたのを思えば大した負荷ではないのだが。

 大文字山は、二等三角点をいただく標高465mのピークである。東山コースでは、比叡山についで第二の標高を誇る。とは言え、単純に高さで比較すると、比叡山の半分強と言った程度であり、一般に如意ヶ嶽と混同されることも多いが、実際のところの大文字山は如意ヶ嶽の支峰に過ぎない。そもそも東山コースの本線は、大文字山の山頂を通っていない。それでもその名が高いのは、五山送り火の影響以外にありえない。京都以外に暮らすものにとって、五山送り火とは大文字焼きに他ならない。本来は、五山の名の通り、京都盆地を囲む五つの山で、大文字、妙法、舟形、左大文字、鳥居形と五種類のかがり火を焚くお盆の行事なのだけれど、その中でも大文字山の大文字が代表格と言って良い。なお、左大文字が焚かれる山は、金閣寺のすぐ北方に位置する同名の大文字山で、京都御所を間に挟む形で、京都の街の反対側に位置する。

 そんな大文字山の山頂には、9:04に到着。琵琶湖疏水からはちょうど1時間。もちろん送り火シーズンではないのだけれど、眺めが良いことから結構ハイカーも多い。京都屈指の展望所として知られるこの山頂は、京都の中心部を見下ろせるのはもちろん、意外にも山科方向を垣間見ることもできる。山頂自体は京都一周トレイルのコースをわずかに外れたところにあるのだけれど、送り火の火処は山の西側斜面にあるため、本線を完全に外れ、こちらに下山コースを取る。なお、オミットすることになった本線側には、俊寛僧都忠誠の碑なるものがあるらしい。が、渋すぎる。

 火床は、山頂から10分ほど歩いたところにあった。山頂側から来ると、当然に大文字の上部に出る形になるが、見下ろしてみてもこれが全体で大の字に見えるのかと、首をかしげたくなるような光景ではある。立木の切り払われた斜面は思いのほか急だが、登山道は作業用通路としての性格をも有するためか、緩い傾斜の階段となっており、その一段一段の間隔も狭く作られているため、いざ下ろうとすると、歩けど歩けど進んでいる感じのしない代物である。送り火本番の日、ここからその様子を見るのもおもしろそうだと思ったが、同じことを考える人が多く現れ、儀式の進行に支障が出るようになったため、近年ではそういったことができないよう、厳戒態勢が敷かれているのだそうだ。

 さて、コースのガイドマップによれば、大文字山経由の進路を取った場合、下山点は銀閣寺付近となるはずだったのだけれど、大文字山への一般的な登山道の一つを手繰って行った結果、やや整備状態の悪い道を下ることになった。整備された登山道と言うよりは踏み跡のようでもあるが、道々で木が切り倒され、薪状に井桁を組まれているのを見ると、そんなにおかしな道を下っているわけではないのはわかる。なお、先に触れた俊寛僧都とは、鹿ヶ谷事件の首謀者の一人としておなじみの人物だが、謀議の場所となったのがこの界隈である。鹿ケ谷とはよく言ったもので、現在でもシカが駆け回るような山林であった。少し下ればすぐに人家があるような場所なのだけれど、野生のシカと言うのはこれほど人里の身近に暮らすものなのだろうか。奈良のシカではあるまいし、人に飼われているものとも思えないが。

 9:42、霊鑑寺付近に下山。想定していたよりもいささか南に出たようで、京都一周トレイルの本線復帰のタイミングもまた若干早まった。少し進むと哲学の道に差し掛かり、東山コースもこの川沿いの小路をその一部に組み込んでいる。京都観光のガイド本なんかを見ていると、銀閣とセットでいっぱしの観光地のように紹介されていることも多いが、歩いてみるとどうと言うこともない道だ。足下の小川にはコイが泳いでいるが、なぜかコイ=汚い水に住むという情報が思い出された。

 この先はどうしたものか。もちろんコースをトレースするのであれば比叡山の山域に入って行く以外の選択肢はないのだけれど、今日はここまでで打ち切りにしたい気持ちも頭をもたげてきている。前回と今回で、京都一周トレイル東山コースは、取り立てて森林歩きが好きなわけでもない私には、少々厳しいところのあるコースだということに気づいていた。幸か不幸か、エスケープポイントが多数あることも、安易な中座を選択したくなるメンタリティを後押しする。銀閣界隈のこのポイントは、バスの本数も多く、エスケープにはもってこいの場所と言える。欲を言えば、今日の蹴上のように地下鉄駅を出ればそのままコースに接続しているような場所が良いのだけれど、この先に進んでも山に入って行くしかない。この場所は、京都駅前から路線バスに乗れば一発で来れる場所には違いないので、そこで手を打ち、比叡山はもう少し紅葉の進んだ時期に、堂宇の見学も視野に入れる計画で挑んでみようと思う。
ねじりマンボ。南禅寺側から見ている。

京都市民命の水、琵琶湖疏水。

大文字山を目指して。無茶に登る箇所はないが、思ったより歩くことになる。

大文字山山頂。しかし、最大の見所はこの少し後にやって来る。

火床の最高所付近から京都盆地を見下ろす。

火床。

火床が集まって固まれば大文字になる。この概念。

シカもおるでよ鹿ヶ谷。

哲学の道。

 
アクセス JR稲荷駅または京阪電鉄伏見稲荷駅より。中断地点までの交通は各項参照のこと。
ガイド本 京都一周トレイルコース公式ガイドマップ東山 京都一周トレイル会
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