糸瀬山・その2
静かな中央アルプスの展望台
■標高:1867m
■歩行時間:6時間
■登山日:2014年4月26日




 しょうぶ平の登山口からしばらくの間は、植林地帯となっているようである。一方、登山道に積もった落ち葉の中には、大振りの朴葉が良く目立つ。ガイドの記述には「マツ林の中を10分ほど登ると」とあるが、松はもう一つ存在感がない。和風庭園でよく見る、幹をくねらせるような姿ではなく、直立した自然のままの姿をしているため、印象に残りにくいのだろう。歩いていくうちに登山道上にも多くの松ぼっくりが散乱するようになり、ようやく松の木の多い林であることが分かった。一瞬、摺古木山や安平路山などと思われる山々を見渡した後、道はわずかの間平坦になるが、急斜面に平行してつけられているために幅が狭く、少々頼りないような道でもある。

 20分余り歩いた後、アカヤシオの花越しに糸瀬山と思しき山が姿を現した。いや、方向から言えば糸瀬山に通ずる稜線であることは間違いなさそうだが、山頂がダイレクトに見えているというわけではなさそうだ。このあたりから、山道は再び急登の様相を見せ始めた。道自体の整備状況は中の下と言ったところ、良好な登山道と言うよりは踏み跡のニュアンスが強い糸瀬山の頂への道も、わりと短いスパンで手製のホーロー看板のような道しるべがつけられている。所要時間や距離を示すものではなく、ただ単に「イトセ」と表示されているだけと言ったものだが、道を外していないことを教えてくれるのは心強い。そして、道がわずかばかり下ったところの、そうした看板の一つに「イチョウ谷」と書かれたものがあった。ガイド本にある「一ノ谷」のことなのだろうか。地形的な条件は本の記述の似通っていて、左方向が谷となった、容赦ない急坂が始まる。ただ、本にあるように笹が多いかと言えば、そんな雰囲気でもない。

 じっくりと登り、5分ほどで最初の登りを越えると「胸つき八丁」と書かれた看板があり、これからさらに続く激登りを教えてくれる。この坂も5分ほどで乗り越える事ができ、その先がわずかばかりの平坦地となっていた。炭焼き釜の跡を思わせる石積み遺構があり、近くには「丸屋の鳥屋」と書かれた看板がある。鳥屋というのが良くわからないが、慣用的な用法からして小部屋とか小屋とか言うほどの意味なのだろうか。それはさておき、ガイド本では、丸屋の鳥屋は胸つき八丁の前に来ることになっている。本の内容と現地の状況が決定的に一致しないことに気づいた瞬間だ。なお、丸屋の鳥屋は10:13の到着である。

 丸屋の鳥屋の後も、気を抜けない登り坂が続く。ようやく(?)笹薮が始まったものの、やはりガイドの内容と山道の現況は微妙に食い違っている。時期も時期なので藪こぎにならないのは分かる。背後に御嶽山を背負いながらの登りになるということだが、それも見えない。春霞の中の登山であるため、眺めが悪いのは想定の範囲内なのだけれど、木曽の山から木曽の御嶽山が見えないことを訝る気持ちもないではない。ただ、その代わりと言おうか、進行方向右手には中央アルプスの山並みが見えてきた。位置からいって越百山、南駒ケ岳と言ったところに、どうかすると空木岳が見えているのだろうか。考えてみれば、中央アルプスの山々に関しては山容を見てどの山かわかるような知識がない。辛い登りが続く中、抱きしめた心の越百を熱く燃やし先を目指す。

 10:27、まむし坂に差し掛かり、それから間もなく「イチョウ谷 4の谷」と書かれた看板の前を通過。ここがガイド本に言う四ノ谷源頭に当たるか。これまたガイド本の概念図ではまむし坂の方が後に来るのだけれど。急な登りが続くのは相変わらずである。コースロープなのかもしれないが、トラロープが登山道上に設置されていたため、これを頼りに上を目指す。今回、お守りとして6本爪クランポンは持参しているが、グローブは持ってこなかった。ロープとの摩擦でひりつく手に、そのことを考えていた。そんな中、10:49に「山居の鳥屋」に到着。ここも、石積みの跡が残っている。数十センチほど地面を掘り、その周囲を石垣状にしている感じだ。往時はこの上に簡素な小屋を建て、山での宿りにしていたということなのだろうか。

 「山居の鳥屋」から山頂までは、コースタイムで50分となっている。さすがに消耗してきたし、道は相変わらず急坂が続く。これはコースタイム通りに歩くことになるかもしれない。本の記述から受ける印象ほどではないにせよ、コース上の倒木も多く、さくさく進むとは行けない区間である。

 11時半に、崩落地の縁を通過。これが青ナギであることは間違いないだろう。尾根までえぐれた右手の山腹には立ち木がなく、中央アルプスの山並みが良く見える。樹間から窮屈に覗いていた先ほどまでとは、明らかに迫力が違う。ここまで来れば山頂までは10分か20分といったところであろう。最後の力を振り絞り、山頂を目指す。

 幸いなことに、さすがに傾斜も緩んできたが、ここにきて思いもよらない障壁が出現した。残雪である。ゴールデンウィークに入ったとは言え、まだかなりの量がある。ほぼ平坦な尾根上に残る雪なので、クランポンをつける必要もないが、だんだんその量は増えていった。登山者数が少ないためか、雪の上につけられた靴跡はごくわずかの数だ。当然、圧雪化もしていない。ただ、見た目の嵩だかに反して、地表を伝う雪解け水のため、下部が空洞化しているらしく、下手なところを歩こうとすると、ずぼずぼと踏み抜いてしまうような雪である。かなり歩きにくく、ここにきて思いもよらぬペースダウン。

 糸瀬山の山頂は、比較的平坦なところに大きな岩がいくつも転がった広い頂である。その点、雪庇踏み抜き滑落の心配などはないのだけれど、岩と岩の隙間に堆積した雪の上は、歩きにくいことこの上ない。わずかな足跡をたどっても、足がずぶずぶ沈む。元来、山頂の目印となるものに乏しい糸瀬山頂だが、足場の悪い中をあっちへうろうろ、こっちへうろうろしながら、どうにか二等三角点を見つけ出し、それをもって山頂を踏んだことにした。時に11:57。

 ただ、糸瀬山の名物であり、中央アルプスを展望する絶景の地であるというのろし岩は、パスすることにした。距離にして山頂部から数十メートルほどしか離れてはいないはずだが、視界に一目でそれと分かる岩は見当たらず、またこんな歩きにくい中を目指そうという気にはならなかった。のろし岩自体がわりと危険な岩場であるという前情報も耳にしており、果たしてこれだけ雪がある中で岩によじ登れたものかどうかという思いはあった。まあ、露頭部分の雪は完全に溶けていたのだと思うが、取り付きのハシゴとかはどういう状態なのか良く分からない。

 糸瀬山山頂付近に多くの雪が溶け残っているのは、林によって直射日光がさえぎられていることによるところが大きいものと思われる。つまりこの山頂は、展望がなく、薄暗いことから余り景気の良い場所でもない。さらに雪で覆われている場所が多い中で、レジャーシートの類を持ってこなかったため、昼食時ではありながら飯を食べるのに適当な場所もない。仕方なく、道中の青ナギの縁まで戻ることに。そこも登山道の途中みたいな場所ではあったが、時期的なものもあってか、登山者の少ない糸瀬山だ。今日もこれまで2組2人の登山者と行き違っただけだ。地形の剣呑さを別にすれば、落ち着いて食事の取れる場所ではあろう。南駒の雄姿を眺めながら、パンをぱくつく。

 帰りは、来た道をそのまま引き返すだけである。2時間半の道のりとなったが、登っている時に感じた以上の急坂が延々続き、肩で息するような苦しさがない代わりに、脚が萎えてしまった。帰りの道中、方々でアカヤシオが花を付け、また若葉が開き始めているのを見つけた。たぶん、午前中に登っていた時には開いていなかった花であり、葉であるはずだ。のろし岩のことが若干心残りではあった下りの道も、それらの木々が、春の山登りに文字通りの花を添えてくれた気がする。
これが本編登山口。なぜか看板が多い。

時々は展望もある。

芽吹きの季節だ。

丸屋の鳥屋。

いやな名前のまむし坂。ちなみにマムシは一般的に水場を好む。

崩落地の縁を行く。山頂は近い。

中央アルプスの主稜線が見える。

あまり自信がないが、南駒ケ岳?

雪に埋もれた山頂一帯。

登りの時には蕾だったが、下山時に一気に花開いていたアカヤシオ?

 
アクセス JR須原駅より。
ガイド本 改訂新版 名古屋周辺の山 山と渓谷社
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