寧比曽岳・筈ヶ岳・その2
ロングコースで挑む東海自然歩道愛知県内最高点
■標高:1120.6m
■歩行時間:9時間50分
■登山日:2014年4月12日




 暫時のゴンゾレ休憩の後、先を目指す。路傍の道しるべには、ついに寧比曽岳の名も表示されるようになった。それによれば、残すところは距離にして5.9km、所要時間は3時間20分となっている。東海自然歩道のこの種の案内は数字が非常にアバウトである。ここまで歩いてきた感触から言えば、山頂までは1時間半強。到着は13時前後、東海自然歩道のコースからは外れる筈ヶ岳への往復を加味すれば13時を少し回ったところと言うのが現実路線の予想となるだろうか。

 しかし、その着時間予想は、いきなり雲行きが怪しくなった。名実ともに寧比曽岳の山域に入ったのは間違いないのだろう、とってつけたように道のりは険しさを増し、文字通りの山道、山登りの様相を呈してきた。このあたりの道は、周辺の樹林の防火帯も兼ねているようで、頭上を樹木に遮られることなく、道幅も広い。周りは雑木林などではなく、かなりよく手入れされた植林である。作業用の通路をも兼ねているのであろう登山道は、決して荒れ果てた険しさはないものの、結構傾斜が厳しい。

 金蔵連峠までの道のりが決して短くなかったため、休みがちにこの急坂を越えていくことになりはしたが、猛然と叛骨心を奮い立たせる。「ごんぞれまでの消耗分はハンデとしてくれてやるぜコンチクショー」ってな感じである。10分余り登り続けると、道は一時的に下り坂となり、さらに谷をトラバースする形の林床の平坦路へと続いていく。一息つきながら進んでいくと、道は車の通れる林道につながり、再び急な登り坂に化けた。まったく、金蔵連峠からこっちの道はなかなかに厳しい。急な登り坂はごく限られた範囲にしかなかったとは言え、一応スタート地点である香嵐渓から700mは高度を上げていることになるし、そもそも水平移動距離も14kmほどになる。それだけの道を踏み越えた上での登り坂だから、容易であろうはずもないのかもしれない。加えて、そうした道中の休憩時に発覚したのが、2本持参しているはずのペットボトル入り飲料を、実は1本しかもって来ていなかったという事実。350mlペットは、1本の8割ほどを飲み干している。この先、命の糧となる水分をかなりセーブしながら進まなければならないのは、精神的にも苦しいものがある。もう少し遅い季節の登山だったら、肉体的には致命的なダメージとなっていただろう。

 12:15、金蔵連峠からおよそ1時間で筈ヶ岳への分岐に到着。その山頂は道のどん詰まりに位置しているため、頂を踏んだ上で寧比曽岳を目指すのであれば、行って帰っての往復コースとなる。しかし、せっかくここまで来たのだから筈ヶ岳には寄って行くことにした。だらだらとした登り坂が続く寄り道は、片道5分ほど。筈ヶ岳の山頂は、広くはないながら切り開きになっていたが、展望はほとんどない。一昔前のガイド本の記述によれば、展望は良いはずなのに。山頂周辺の植林がすくすくと育っていると言うことか。唯一、山頂まで至る道の上空のみは開けているため、その方向はやや遠くの山の様子が覗いている程度だった。「愛知の130山」で、寧比曽岳とセットで紹介されているのは、この本の寧比曽岳コースが短行程で済む段戸裏谷からのそれであるため、運動強度(?)調整の意味もあるのだろう。

 往復約10分の寄り道を済ませ、先を目指そうとすると、道は間もなく大下りを始めた。筈ヶ岳と寧比曽岳は別の山なのだから、そういう展開は当然ありえたはずなのだが、なんとなく緩やかな尾根筋によってつながる峰峰だと思い込んでいた。そして再び始まる長い登り坂。今度の登りは、筈ヶ岳までのそれと比べても、ひときわ厳しい。結局、休み休み、息も絶え絶えになりながら寧比曽岳の頂を踏んだのは13時半。筈ヶ岳から先は、ほぼコースタイムどおりに歩いたことになる。

 広く開放的な山頂は、噂にたがわぬ好展望の地だった。人はほとんどいなかったが、一人だけ、ハムをやっているらしいおじさんがいた。どうも話好きな人らしかった。しばらく口を利く気も起きないほどに消耗していたので、おじさんから距離をとった場所にある東屋で昼休憩。方角的に、富士山を見るならばこの位置から、という場所なのだけれど、春の昼下がりともなれば、富士山の姿を望むことはできなかった。ただ、富士山へのこだわりはない。反対方向に目を転じると、南アルプス南部の山はよく見える。意外になじみのない山域だ。東屋の片隅にあった絵解きによると、はっきりとその勇姿を誇っているのが聖岳、光岳らしい。その後、意を決しておじさん側の方へと歩いていくと、ぼんやりとながら、能郷白山が見える。

 さて帰路なのだけれど、伊勢神峠を目指すことになる。峠の土手っ腹を抜く国道153号を、豊田おいでんバスの足助・稲武線が走っており、これでとにかく一度足助を目指すことになる。本数は決して多くなく、14:10の便を逃すと、次は16:10、そして17:10となる。何にせよ14時台のものには間に合わせようがないため、16時過ぎのバスを捕まえるつもりで、適当に英気を養った後で下山を開始。

 伊勢神峠への道は、先述したとおり東海自然歩道の恵那コースの一部である。道中、寧比曽岳への登山口としてはメジャーな大多賀峠があることもすでに述べた。その経路の関係上、大多賀の鞍部から伊勢神峠に向けて登り返しがあると思われる。苦手な下り、加えて今の疲弊した状態だと、やはりコースタイム程度は見ておく必要があるだろう。時間にして1時間半余り。距離は約4.8km。香嵐渓から寧比曽岳までが20km強なので、通しで見るとかなりのロングトレイルの最終盤に相当する。

 恵那コースは本線に比べると整備の程度が若干簡素に見えたが、決して悪い道ではない。ただ、急坂であることにかけては金蔵連峠側と大差ない。今回、息は上がっているものの、足がさほど傷んでいないため、下りは思ったよりも楽である。寧比曽の北側山腹につけられていることからあまり日当たりの良くない道を行くこと約40分で大多賀峠に到着。車道が通っており、近くに駐車場もあることから、多くのハイカーから登山口として重宝されている場所である。

 ここから先、伊勢神峠までどの程度登ることになるのか。警戒しながら歩いていくと、登りはさほど無体ではない。緩く登りながら伊勢神湿原を通り抜けていく。道中いこいの村愛知と言う施設があった。寄り道して行けば、あるいは飲み物が手に入るのではないかと言う期待も抱いたが、なんとなく、すでに廃止された施設のような気がした。名古屋と瀬戸の市境の自然歩道沿いにあった別の施設のように。そして、帰宅後調べてみると、やはりそのとおりであった。

 15:05、伊勢神宮遥拝所に到着。伊勢神と言う地名は、伊勢拝みの転訛であり、この場から伊勢神宮を遥拝したことにちなむと言う。今となってはほとんど何もない場所ではあるものの、遥拝所の反対方向は一部立ち木が切り払われており、稲武や、その向こうの恵那の山並みが見える。少し下ったところには、旧街道である中馬街道(飯田街道)が残されている。東海自然歩道はこの先、しばらくは古道に付き合って進んでいくのだろうか。私はここで山を下ったので、その行く末を見届けることはなかった。九十九折の細い舗装道を下っていくと、旧伊勢神トンネルがあった。明治時代に建造された石巻きの、マニア垂涎のトンネルで、ある種の文化遺産と言って良いだろう。というか、実際国の登録有形文化財となっている。バス停のある国道153号はさらに下方を通っており、街道筋が時代の移ろいに伴い、下へ下へと変遷して行ったことが分かる。

 15:35、国道に面するドライブイン伊勢神に到着。駐車場の片隅には自動販売機があり、ようやく人心地ついた思いだ。伊勢神バス停は、道の反対側、登り斜線側には設置されているものの、足助へ下っていく側にそれらしいものがない。どこでバスを待っていれば良いのか。もしかして手を上げて呼び止めるタイプのバスなのか。よく分からないまま、対面あたりで待っていたら、16:10のバスは駐車場に乗り入れる形で停車した。これで、無事に足助までの道に目途が着いた。後は大きなトラブルもないだろう。バスは足助病院を終点としていたが、香嵐渓で浄水駅行きのバスに乗り換えた。車中から、西に傾く日を眺めながら、私の寧比曽登山は終わりを迎えた。

 ところで、今回の戦訓からして、伊勢神から田口までを一日でつなぐことはできそうだ。愛知県コースのパンフによると、距離にして25kmあまり、コースタイムは8時間強、ほとんど下り基調で600mほど高度を下げるコースと言うことになる。まあ、歩くとしたら秋のことになるだろう。
金蔵連峠からの道はかなりの急勾配だ。

車すら通れそうな筈ヶ岳への道。

筈ヶ岳山頂。特筆すべきものはない。

樹間に覗く寧比曽の頂はまだ遠い。

苦闘の末の寧比曽山頂。

山頂より西を見る。

南アルプスが見える。

伊勢神峠の中馬街道沿いにある伊勢神宮遥拝所。

旧伊勢神トンネル。国登録有形文化財。

 
アクセス 名鉄浄水駅よりとよたおいでんバス「香嵐渓」下車。
ガイド本 ふれあいウォーク東海自然歩道 東海版 風媒社
関連サイト

その1へ戻る  



▲山これへ戻る