石巻山
豊橋市民心の山
■標高:358m
■歩行時間:6時間30分
■登山日:2013年12月31日

    生まれの地は豊橋、それから物心つくかつかないかまでの間を別の場所で暮らし、再び豊橋に引っ越して、小児期の終わりと言って良いような時期までをそこで過ごした。住んでいたのは市内の東、静岡県までは山を隔て、車で20分ほどの場所だった。この山並みを、弓張山地と言う。地元では、赤石山系、つまりは南アルプスの南端だと言われることもあるが、実際には天竜川水系によって南アルプスの主峰とは厳然と分かたれているため、山慣れた人が南アルプスの続きだと言っているのを聞いたことはない。いずれにせよ、決して高い山並みではなく、豊橋市域の東に連なるこれらの山は、せいぜいが300m程度の高さしかない。そして、子供の頃の私が朝な夕なに眺めたこれらの稜線上には、豊橋自然歩道と名づけられた散策路がある。



 2013年の大晦日、その豊橋自然歩道に挑むことにした。本線は弓張山地に沿ってつけられており、国道362号が通る本坂峠のさらに北・中山峠から二川辺りまで続いているのだけれど、今回は懐旧の念に突き動かされ、昔の私との縁があったコースを踏むことにした。すなはち、支線であるところの赤岩寺(せきがんじ)自然歩道から本線に合流し、一時北進して石巻自然歩道から石巻山登頂、もう一度折り返して二川まで歩くと言う物だ。

 豊橋駅で電車を降り、その駅前から路面電車に乗る。日本全国あるところに行けばある路面電車だが、豊橋市はそうした「あるところ」のうちの一箇所である。豊橋鉄道が走らせている路面電車は、市民や近隣の住民からはどちらかと言えば市電と呼ばれることの方が多く、生活の足として、豊橋のアイデンティティーの一つとして、いまだ利用され続けている。

 そう何路線もあるわけではないが、これの終点の一つである赤岩口(あかいわぐち)電停まで進み、なおも道なりに20分ほども歩くと、今回の登山口となる寺院・赤岩寺がある。ついこの間、たまたま高野山に行ったばかりだが、ここも真言宗のお寺で、さすがに国宝はないにせよ、重文・市指定クラスの文化財を残す古刹である。登山道はこの寺の裏山に向かって延びている。市街地に隣接しているため、決して深い山ではないのだけれど、どこか時が止まったような寺の山門などと一緒にその山並みを眺めていると、人手が入っていない手付かずの山のようにさえ見えてくるから不思議だ。9:40、登山開始。

 そんな望見しての印象とは裏腹に、赤岩寺自然歩道は意外に良く手の入った登山道である。豊橋市自体の都市規模は、政令市の一歩手前、東三河地方の中核都市で、周辺市も合わせた政治・経済・文化圏は、50万人規模に相当する。その住人が身近に自然と触れ合うため、東海自然歩道の存在を念頭において整備が開始されたらしい豊橋自然歩道。ある種のレクリエーション施設として整備された物と考えれば合点も行くが、整備水準の高さと、気持ちの良い自然林の保存とが両立された道である。決して縁遠い場所ではないはずなのだけれど、これだけの物がこの場所にあるとは今回の登山で始めて知った。もっとも、道中には赤岩寺城跡という城跡も存在しているはずなのだけれど、その見せ方がうまくない(と言うよりどこに何があるのかさえ判然としない)あたり、あくまで自然探勝に重きを置いた道ということなのかもしれない。

 序盤の緩やかな登りで稜線上に出た後は、割と厳しめの急坂を登りつめ、すぐ近くを走っている別の支線・赤岩自然歩道を合わせて、弓張山地を縦走する豊橋自然歩道に合流する。この本線もまた、気持ちの良い山道である。ただ、愛知・静岡の県境上に位置する登山道でありながら、静岡県側への展望が全くと言って良いほどに無い。つまり、眼下に広がるはずの浜名湖を見下ろすことができない。天気が良ければ富士山も見える位置でありながら、現実的には木々に遮られ、それを期待できる場所は限られる。

 豊橋自然歩道本線を30分ほど北へと向かい、石巻尾根分岐点に到着。石巻山は、豊橋市外の北東端付近に位置する山である。もちろん、位置からしても標高は大したものではないのだけれど、平野の縁にある山なので、豊橋・豊川付近の見通しの良い場所からなら、そのピラミッド型の山容を望むことは容易い。山腹部に観光ホテルと言うか、旅館に毛の生えた程度の規模の宴会宿泊施設が密集しており、それが遠目にも見えるので、それによっても特徴付けられる山だ。ただし、弓張山地側からつめていく場合にはそれらが見えないため、通常見慣れた姿とは異なる石巻山にアプローチしていく。裏側から見る石巻山は、山名そのままに、山頂付近を鎧う巨大な石灰岩の露岩がよく目立つ峨々とした山容である。

 石巻尾根分岐から石巻山の登山口へ続く道の大半は、観光道路と呼ばれる色気の無い舗装道路だ。これを30〜40分ほども歩くと、石巻神社の鳥居の前に着く。目の前に直線の石段があるが、山頂への道はこの石段を登りきり、右側に少し道を外れたところから始まる。もっとも、ここからは大して長い道のりでもない。道中にある石灰岩質特有の地形を眺めながら、良いとこ15分で山頂である。ただし、標高の割りに険しい地形を現出させる山頂であるのも事実で、鉄製のハシゴによって確保された足場を頼りに、岩場の上部に出ることになる。山頂の標高は358m。主に西側や北側、豊橋豊川の市街地への展望が良い。
一応載せとく市電の写真。

赤岩寺山門。

都市近郊ハイキングのコースとしては悪くない雰囲気だ。

本線への道すがらでも石巻山の姿を視認できる。

石巻神社。

長くはなく、危険も少ないが、荒々しい登山道だ。

本宮山方面への展望。

 
アクセス JR豊橋駅より豊鉄バス「石巻登山口」下車。本編コースは市電「赤岩口」下車。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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