馬籠峠・その1
旧中山道を歩く
■標高:801m
■歩行時間:6時間
■登山日:2013年11月23日

    一般に木曽路といわれるものは、旧中仙道のうちでも木曽谷を通る区間を意味する。山がらみで言えば、木曽山脈、つまりは中央アルプスの西側谷筋につけられた古道だ。旧宿場で言うと、贄川宿から馬籠宿までの十一宿がこれに該当する。狭隘な谷間の土地であることから、近年を迎えても猛烈な都市化にはさらされず、宿場時代の古い町並みがあちらこちらに残ることでもよく知られている。その中でも最南からの二宿、妻籠・馬籠は特に有名で、今も多くの観光客を迎え入れている。木曽路全般は、古道ハイクのコースとしても人気があるようだ。



 ニュースによると、私がこの夏諦めた立山の真砂岳で雪崩が発生し、7人が死亡したのだそうだ。真砂岳と言えば、やはり秋の時期に吹雪に巻き込まれたパーティーが壊滅状態に陥る事故が発生したことがある。その時の死者は疲労凍死によるものだが、いずれにせよ画面中の立山は、すでに白銀の世界。夏の印象では、それほど急峻な山には見えなかった真砂岳も、冬が近づけばこうして雪崩れる。雪山は私の理解を超えた世界である。これからの時期、山に行くにしても少しずつ高度を下げ、積雪のないところを選ぶようにしなければなるまい。といったところで今回狙い定めたのが、旧中山道の馬籠峠。いわゆる木曽路の南端部だ。

 JR南木曽駅を皮切りに中山道に入り、妻籠宿、馬籠峠と進み、そこから先は落合宿を経由してJR中津川駅まで歩くのが今回の計画だ。中山道の宿場には中津川宿もあるが、これは中津川駅の少し南東側に位置していた。最高所となる馬籠峠は、標高およそ800mほどの峠である。場所が場所なだけに、真冬ともなれば積雪があるだろうが、この時期はまだそれほどのことにはならないだろう。歩行距離は、概算で20kmほど。ただ、累積標高は「峠越え」という言葉から想像されるほどのものになるとは思われず、普通の山登りほどではない。レクリエーションとしての歩行に、ウォーキング、ハイキング、クライミングといった段階があるとするなら、ハイキングの範疇に属するものと思われる。

 鈍行で移動する中央線は、中津川から先への接続が悪い。うかつな時間に出発しようものなら、目的地に到着するだけでもかなりの時間がかかる。そんな中でまとまった歩行時間を確保するため、午前6時の千種駅へ向かう。今回の運賃は、往復で2500円よりは多少高くなるため、青空フリーパスを購入。千種駅から南木曽駅までは約2時間ほどの道のりだ。

 今回のコースは、6年前に歩いた南木曽駅から馬籠宿までのコースに、興味はありながら当日の不順な天候を敬遠して参加しなかったJR東海さわやかウォーキングの中津川駅〜馬籠宿コースを継いだものである。さわやかウォーキング部分は全く未体験の領域だが、前半は既知のはずである。さほどの感慨も気負いもなく、8:15、歩行開始。防寒対策はバッチリでも、唯一露出した顔を、清冽な寒気が刺激する。付近には、旧中山道として、また中部北陸自然歩道の経路として、妻籠宿を目指す道のりである事を示す道標が設置されているので、これを頼りに進む。

 出だし、SL公園などを通過する辺りまでは順調であった。しかし、一度来たことがあるという慢心があったか、比較的早い段階でコースを見失った。道標が分かりにくいという事情もあった。このあたりの道は旧中山道とは言っても、現在では実質的に普通の生活道路であるため、何が正しい経路なのか分かりにくい。最初のコースロストからは、すぐに本線に復帰することができたものの、妻籠宿まで1kmという地点を通過したところで、再度ミスコース。こちらは傷が深く、南木曽駅から1時間でたどり着けるはずの妻籠宿に、予想時刻を過ぎてもたどり着けないのを不審に思い、かなり行ってから道を引き返すことになった。今にして思えば、遠目に一瞥しただけの道標の段階で、コースを誤ったのだ。「妻籠宿」と表示されてはいるものの、一番太く目立つ矢印は、飯田への道となっていて、妻籠宿への道は別にあるではないか。道理で飯田へ通じる国道257号(清内路道)の方に連れて行かれたわけである。

 ともあれ、妻籠宿には通常南木曽駅から歩く場合とは反対側から入る形になった。時に9:46。ここまでで30分ほど余計に歩いたことになる。単なる道間違いなら本線復帰後淡々と先を目指すところだが、一つのチェックポイントとなる妻籠宿をまともに通過しない形になるのも面白くないので、付近にあった地図を確認して行きつ戻りつしながら、宿場跡の反対側まで歩き、再度折り返して馬籠峠を目指す形になった。6年振り二度目となる妻籠宿は、初見ほどの感動はなかったが、味わい深い宿場の風情はいまだ健在だった。今後も、この風景が末永く保存されることを願うものである。なお、今日は風俗行列というのが予定されているらしく、この後10:30から宿場付近の交通が規制される旨がアナウンスされている。が、今回はまだ先があるため、10時を少し過ぎたところで妻籠宿を離脱。

 前回の馬籠越えのタイムは約4時間。ここまでコース間違いがあったとは言え、正味1時間半程度しか歩いていない。しかも、登りらしい登りもほとんどなく、どちらかと言えば平坦地歩行に近い1時間半だ。全行程を俯瞰した時、ウォームアップですらなく、ようやく今日の戦いの舞台にたどり着いたといったところだろうか。

 国道257号を横断し、直接馬籠峠に続く道に入る。人がすれ違える程度の広さしかない、いかにも昔の街道の名残という雰囲気の道である。もちろん、アスファルト舗装ではない。時々は車道と交差しながら、少しずつ山の中へ入っていく。道中には妻籠宿の外れのような位置付けになるのだろうか、思いのほか山側に踏み入ったところに古民家が残る大妻籠、一部現存する石畳、男滝・女滝、立場茶屋といった見所がある。経路上に位置するものはともかく、男滝・女滝は旧中山道本線からは外れるらしく、前回の歩行時に見物していたこともあり、今回はパス。

 それにしても、予想外にハイカーが多い。そして、皆が一様に妻籠宿方向へと下っていく。どうもJRならぬ名鉄のハイキングが開催されているらしく、その参加者なのだろう。大妻籠に着くまでは、それでも2〜3人のグループと5回に満たずすれ違った程度だったが、馬籠峠の最高部に差し掛かる頃には、後続が途切れなくやってくるような状態になっていた。おそらくスタート地点になっているのであろう馬籠宿は、ちょっとしたイベント会場の様相を呈しているのだろうか。ちなみに、道沿いに設置されたコースガイドを見る限りだと、私のように妻籠から馬籠に上るパターンもアリのように見えるのだけれど、そうしているハイカーとは一人として出会わなかった。後になって調べてみたところ、コース名としては「中山道の名所・馬籠宿から妻籠宿へ」だったようである。JRのさわやかウォーキングと違い、現地まではバスを仕立てていくスタイルらしく、参加費用は4500円とお高めだ。
南木曽駅。木曽路の主要駅の一つ。

道すがらの一里塚。歴史的遺物は、本来石碑ではなく文字通りの塚の方だ。

問題の看板。矢印も道も左行きが太いが、妻籠に通じるのは右手の細道だ。

回り道の末、妻籠宿に到着。

間の宿、大妻籠へ。

一部に残る旧道部分。

立場茶屋・牧野家住宅。

 
アクセス JR南木曽駅またはJR中津川駅より。
ガイド本
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