尾籠岩山
奥三河の里山
■標高:700m
■歩行時間:2時間30分
■登山日:2013年11月3日

    北設楽郡東栄町にある尾籠岩山は、はっきり言ってマイナーな山である。ガイド本の目次に並んだ時、確かに印象に残る名前ではあるけれど、その成り立ちは「尾籠岩の山」ではなくて「尾籠の岩山」である。尾籠と言うのは集落の名で、地元では専ら岩山と呼ばれている。「尾籠」と書いて「おろう」とか「おろ」とか呼ぶ。尾籠岩という、何ぞ曰くや伝説のありそうな岩が山中存在するわけではなく、山名自体も凡庸である。地図上名前が出てくることも無いため、標点の類の無い、事実上の無名峰なのかも知れない。しかしながら、現地尾籠の集落まで脚を伸ばすと、岩山の名そのままに、巨大な岩盤の露出したこの山の威容が視界に飛び込んでくる。



 名古屋から東栄町は、ちと遠い。マイカーなら、猿投グリーンロードやら国道153号やらを経由して、三河の山岳地帯を東へ突っ切ることもできるが、公共交通機関利用だと、ぐるっと豊橋に迂回して、そこから飯田線を利用しなければならない。そこまでして行くほどの魅力がこの山にあるかどうかは、難しい問題を含んでいる。標高700mという高度、そして周囲との比高の面から言うと、低山と言うより里山の域なので、千里の道をものともせずと言うほどの登山対象ではないのが実情なのだけれど、11月3日文化の日は、この山のある東栄町で、東栄フェスティバルと言う商業祭りが行われており、その中で私が興味を持っている花祭(甘茶でかっぽれの方ではなく、いわゆる三猿南信地域でよく見られる霜月神楽の一種である)のダイジェストが実演されると言う事情もあり、祭り半分山半分で出かけて見ることにした。ガイド本は「愛知の130山」。

 もともとの計画では、5時台にある名鉄の始発で豊橋駅を目指すつもりでいたのだけれど、その程度のモチベーションであったため、4時に起きた時に睡魔には勝てず、6時過ぎを待ち、地下鉄とJRが動き出してからの行動開始となった。三河の山を目指す時、長行程を予定している場合にこの調子では行動時間が足りなくなるのだが、今回に関してはこれで十分だった。千種駅で青空フリーパスを買い、7時過ぎにJRの列車に乗り込む。ここから3時間近くをかけて飯田線の東栄駅にたどり着いたのが10時前。駅前からコミュニティバスであるところの北設バス東栄線に乗り、先を目指す。数年前に同じ東栄町の山である三ツ瀬明神山を目指した時には、こんなコミュニティバスは走っていなかったような気がする。今回調べてみた限り、本数は少ないものの、東栄町近隣の山を目指す場合には利用価値がありそうなバスで、路線自体は北設楽地域の主だった市街地・集落を網羅している。一つのターミナルとなるのが、東栄町内にある本郷バス停のようである。座席シートにあしらわれた、マスコットキャラクターの「ばすりん」がかわいらしい。

 さてこの北設バス、実態は普通のマイクロバスで、並みの路線バスには付き物の降車ボタンが無く、降り方が良く分からない。どうも乗り込むときにドライバーに行き先を告げるか、降りたいときに口頭で申し出るかするシステムなのではないかと推測するが、とにかくどうすれば良いか分からない。車内放送もないので、バスがどこまで進んでいるか把握するのさえ、土地勘の無い人間には非常に厳しい物があると思われるが、幸い私にはそれがあった。まごついているうちに、バスは東栄町の中心部である本郷の街中へ。岩山を目指す際、最寄となるバス停はもっと先のはずだけれど、本郷バス停自体もべらぼうに遠いわけではなく、場所が場所なだけに他の降車客がいたこともあって、これに便乗してバスを降りた。東栄町内では最も人の多い地区で、道沿いの商店には東栄町が名物にしようとしているらしいチェーンソーアートの動物なんかが立っている。後でわかったところでは、本当の最寄バス停は戦橋バス停となるものと思われる。

 戦橋停は国道151号沿いのバス停だが、岩山へは柿野川に沿って脇道にそれる。方角的には三ツ瀬明神山の柿野登山口があるのと同方向であり、国道沿いには二つ合わせて登山口への案内表示も出ている。川沿いをしばらく歩くと、柿野登山口への道と岩山登山口への道は枝分かれする。なおも歩いて尾籠の集落にたどり着く。岩山は、地元の観光資源に位置づけられているのか、道案内の類はかなり充実している。若干長めに歩いたが、ここまで本郷から1時間ほどの道のりである。看板のある登山口には、合わせて山頂まで1500mと表示されている。休憩無しの30分コースであろう。

 11:13、登山開始。民家の庭先のようなところから始まるが、登山口には、登山計画を書き込む黒板なども設置されており、ここが登山道への取り付きである事は間違いがなさそうである。地元が誘導しようとしている道なだけあって、状態は悪くない。植林の中の道で、あまり明るさもなければ、変化も無いのは残念なところだ。稜線に出るまでは、およそ20分。淡々と登り続ける。

 稜線上の道に出てからが尾籠岩山がもっともこの山らしさを見せる区間で、向かって左手がすっぱり切れ落ちた断崖になっている。下から見上げた大岩の上である。一応木が生えているので、一見しただけでは高度感が無いが、「のぞき岩」と名づけられた露岩の岩頭では、その絶壁ぶりが良く分かる。のぞき岩の上からは、山麓の集落や本郷の町外れにある新城東高校本郷分校の建物も見えるが、どちらかと言えば重畳たる山並みが印象に残る。いずれにせよ、いくら眺めが良いとは言え、絶壁側に緩く傾斜した剣呑な場所だ。あまりここに腰を落ち着けて休憩しようと言う気にはならない。ここまで来れば山頂も指呼の距離である事だし、先を目指す。

 ここから山頂まではおよそ10分。11:44の登頂だった。岩山と呼ばれる山の頂上らしく、ごつごつとした岩が場所を占める、それほど広くは無い山頂である。大気は湿気を帯びている。展望は、無いではないが、良くも悪くもすぐ南側に聳える三ツ瀬明神の存在感が大きく、それ以外はさほど印象に残るものが無い。そして、ここから見る三ツ瀬明神は、奥三河の名のある山から遠望するその山容とはずいぶん印象が違い、やけに尖って天を突いているように見える。三ツ瀬明神の北麓から延びる登山道が柿野登山道だが、実は岩山からの縦走路が存在しているらしく、今日の道中にはその分岐点があった。下山中に出会った別の登山者にも「今日はこれから明神へ行くのか?」と言う意味のことを聞かれた。登り初めから30分で決着がつく短行程であることを思えば、そういう発想も当然の如く生まれてくるであろう。ただ、「愛知の130山」を読んでコースの研究をしている段階で、30分前後で登れる山であろうことは想像できていたが、明神への道が存在することには思いが至らなかった。二万五千図と首っ引きでいれば、そういう計画も生まれたのかもしれない。
登山道は民家の庭先から始まる。

植林の林床を歩く。ちなみに、季節によってはヒルが出る山域だそうな。

のぞき岩の縁。

そして、のぞき岩からの眺め。

おとなしめの山頂。

少し下ったところに岩山の行者様という石像が祀られている。

番外。花祭@東栄フェスティバル。

 
アクセス JR東栄駅よりおでかけ北設バス「戦橋」下車。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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