棚山・その1
愛知の高原地帯
■標高:760m
■歩行時間:5時間30分
■登山日:2013年9月21日

    愛知県内を対象にしたハイキングガイドの本には、新城市の北部に位置する山として、棚山を紹介する物も多い。隣接の山としては、宇連山、鳳来寺山があり、いずれも愛知県ではメジャーどころの山である。これら二座とは、両方と東海自然歩道によって結ばれる棚山だが、その東海自然歩道のルートガイドで見られる「棚山」の表記は、専ら棚山高原というものだ。高原の名そのままに、この周辺には山と言って一般に想起されるような顕著なピークはなく、ほとんど平坦な高地が広がっている。棚山とされるものは、標高点の存在する周辺最高地点のことで、その標高は760m。なお、東海自然歩道はこの760m地点を通らない。



 この夏山シーズン中、白山・立山・西穂高と、高山ばかりを相手にしてきた。そろそろ秋を迎えようかという時期になって、里山相手に文字通りの里心がわいてきたため、三河の低山である棚山を目指すことにした。1000mに満たないこの山のこの時期は、錦秋と言うにはまだあまりにも早い。ようやく盛夏の過酷さがなりを潜めてきたと言う程度の物だが、「とりあえず歩く」と言う部分が主眼となる私の山行でにとっては、蒸し暑くないだけでも御の字である。前述したとおり、東海自然歩道の途上に位置する山であるため、今回は新城市海老から東海自然歩道に入って、鳳来寺山に抜けるコースを歩いてみる。

 飯田線に揺られ、8時過ぎの本長篠駅に着。そこからわずかばかりの待ち時間を経て、田口行きのとよてつバスに乗り、20分ほどで海老の集落にたどり着いた。かつての街道筋に位置し、昭和40年代に役目を終えた田口鉄道の駅もあった町で、周辺の商店にはそのくらいの時期から続いていると思われるところも目に付くが、現在は国道257号沿いの静かな田舎町となっており、街並みは決して今風でない。バスを下車後、国道沿いに少し歩くと、東海自然歩道への道順を示す看板が立っているので、これに従い、国道を外れる。一応、この海老の町を今回のスタート地点とする。8:50の登山開始である。

 車で豊川市街から設楽町方面を目指す時でさえ目に付く国道沿いの看板だが、歩いてみると東海自然歩道までの道のりが遠い。海老集落を外れ、もはや山村集落となる川売(かおれ)を抜け、林道棚山線を1時間近くも歩く。ほぼ完全に舗装された、自動車対応規格のだらだらとした登りが続き、ようやく登山口にたどり着く頃には、眼下はるかに川売の集落を望み、「愛知の130山」に紹介されるマイナー山・高畑がすぐ近くに見える。わりとさまになる山容だが、私が登ることはおそらくあるまい。そしてこれから目指すことになるであろう稜線はすぐ近くにまで迫っている状態だった。時に10:15。1時間半も舗装道路を歩き続けた計算になる。登山口には、東海自然歩道への案内が出ているが、本線に直接接続しているわけではないため、少し荒れた印象の山道が続く。

 林道歩きで必要な高度の大半を稼いでいるため、ほとんど平地の棚山高原に出るまで、大した時間はかからない。つまり、山道を登る時間は非常に短い。10分あまりで、これぞ東海自然歩道という、広い、整備された道に合流する。その道幅は車も通れそうなほどで、よくよく見ればわだちのようにも見える部分もあるが、実際車が乗り入れているのだろうか。東海自然歩道への合流点付近には廃墟化したバンガロー村の跡があり、往時にはこの辺りまで車が入っていたのかもしれない。林道終点からバンガロー村跡までは、キャンプ目的で色々荷物を担いで歩くには億劫な距離感があり、どこからか車で至近まで入り込めていたとしても不思議ではない。あるいは、車で近づけなかったとして、その不便さが時流に合わず、バンガロー村は廃業を余儀なくされたものとも解釈できる。ただ、建物群は基本的に旧状を留めており、しかもかなりの数がある。まだ周囲の自然と調和するまでには至っていない。実際のところ、そのような状態になる前に廃屋の群れが撤去されることはあるのだろうか。

 ちなみに、棚山高原キャンプ場が閉鎖されたのは昭和50年前後のことだったようである。もはや40年近く朽ちるに任されているということは、この先もこのままか。ただ、現地で現物を見る限り、そんなに長い間放置されているようには見えなかったのも事実だ。建物のうちの一棟に付けられていた「告 本年は都合により棚山高原キャンプ場は休止しますので利用できません 鳳来町観光協会」という看板を見ると、最初から廃止を意図していたのではなく、一時休業のまま凍結されてしまったと言うのが実情なのかもしれない。

 それにしてもこの辺りは、愛知県内にこんなところがあったのかと思わせるような、まさに高原である。長野県だとか山梨県だとかの山岳県の高原には到底及ばないものの、自然豊かで空が近く、しかも開放的な空気がある。そんな道を歩いて、少しの寄り道となる瀬戸岩へ。棚山の山頂とされる760mピークは、ほとんど展望がないため、そういったものを求めるのであれば瀬戸岩が好適、休憩もこちらの方が良いと、ガイド本にも書かれている。眼下には、海老集落の南側に位置する玖老勢(くろぜ)の街並みが見える。晴れた日には三河湾も見えると言う触れ込みだが、大気の状態はともかくとして、山々に囲まれた箱庭のような玖老勢集落を見ていると、本当に見えるのだろうかという気がしないでもない。

 本線に復帰し、少し鳳来寺山側へ移動。左方向に分岐する道が目に入ってくる。東海自然歩道は直進方向で、左手へのこの道は踏み跡程度のものなのでともすれば見落としそうだが、これが棚山尾根で、760mのピークもこのルート上にある。東海自然歩道からは外れる道なので、その入口箇所にはその旨を記した簡素な看板もあるが、鳳来寺山方向から来た場合の宇連山へのショートカットコースである。こちらを行く場合は棚山高原をパスすることになるが、結局は宇連山山頂付近で東海自然歩道本線と合流することとなる。高原の南東端に相当する尾根道であるものの、立ち木に遮られ展望はない。多少のアップダウンがある中で、顕著なピークとしては2番目に控える高みが、棚山最高点だ。11時到着。やっぱり展望はなく、これと言って目印になるものもなく、地味な山頂だ。あまりの凡庸さに、そもそもここが本当の山頂なのかどうかすら怪しい。今回に限って二万五千図を持参しておらず、東海自然歩道のコースガイドや、登山ガイドの概念図から、どうやらここが最高点らしいと比定した。別になんと言うこともない道端みたいなものなので、ほとんど足を止めず、踵を返して鳳来寺山を目指す。
海老は、それなりに歴史のある町だ。

川売集落を抜けても、棚山はなお遠い。

林道から東海自然歩道までの道は、並みの山道の整備水準だ。

廃墟となったバンガロー村。

スケールは小さいが、高原的風景が広がる。

瀬戸岩から見下ろす玖老勢の町。

特に何もない最高地点。

 
アクセス JR本長篠駅より豊鉄バス「海老」下車。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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