西穂独標(未踏)・その1
アルプスに登るということ
■標高:2701m
■歩行時間:3時間
■登山日:2013年9月14日

    富士山が世界遺産登録されて初めて迎えた夏。富士山は大層な盛況ぶりだったという。高山の中でも圧倒的に一般受けする富士山に対し、言うなればマニア向けとなるのが槍・穂高だ。難易度云々ではなく、山に興味はないけど槍や穂高に登ってみるという人は、そうはいまい。槍ヶ岳はともかく、例によって穂高岳という単独のピークはなく、実際には奥穂高、前穂高と言った具合にいくつかの山が寄り集まって一群の山塊を形成しているが、その中でも入門編・初心者向けに位置づけられるのが西穂高岳だ。何と言っても、新穂高ロープウェイでかなりの高度を稼ぐことができる。反面で、西穂独標から先の道は険しく、初心者が不用意に進むと立ち往生するコースだとも言われている。



 未だに低山ハイカーの位をうろうろしている私だが、そろそろ本格的北アルプスデビューを、言い換えれば槍穂高デビューをと考え、登ってみようと言う気になったのが、この西穂高岳である。諸般の事情により、写真は雪山状態のものを掲げているが、登るのは当然無雪期、というか9月の連休である。穂高の名を冠する山の中では唯一3000m未満となる2908.6mの標高を持つ。

 もともと、職場にいるそれなりの山暦を持つ人から「独標までならそんなに危なくない」と教えられ、前述した独標までの山行を計画していたのだが、ヤマケイの分県ガイド岐阜県版を見て研究しているうちに、西穂の山頂まで行ってみるのはどうかと思い始めてしまった。毎度おなじみ危険度の格付けで行くとレベル4。実際行くとなると初挑戦のレベルだ。4段階中の4なので、これより上はないという危なさだが、実際のところはレベル4の中でも危険度はピンキリのようである。その中で新穂高ロープウェイから西穂高山頂までの道のりがどの辺りに位置づけられるのか、定かではない。が、そんな山に挑もうとする私の不遜を戒めるように、山行の決行予定日である9月15日には、台風18号が日本の南海上から東海地方を睥睨していた。

 前日の土曜日。午前中に用事を片付け、名鉄バスセンターから高山行きの高速バスに乗る。2時間半でJR高山駅前の濃飛バスセンターに到着し、そこからさらに濃飛バスの路線バスで1時間。乗り込むバスはそのものズバリ新穂高ロープウェイ行きのバスだが、下車するのはその途中にある平湯温泉バス停である。今夜の宿となる穂高荘倶楽部は、昨今流行の立ち寄り湯で、平たく言えば「温泉宿である『穂高荘山がの湯』が、温泉を使って健康ランドを始めました」的な施設だ。穂高に近い奥飛騨温泉郷は、平湯・新平湯・福地・栃尾・新穂高と五箇所の温泉地があり、温泉宿には事欠かないのだが、一人客が気楽に泊まれるような宿は、一部の民宿を除けばほとんど存在しない。そうした中で安価に泊まれる穂高荘倶楽部を、物は試しで使ってみようという気になった。楽天トラベルから、仮眠室の予約が可能だったので見つけることができた。難を言えば、チェックインが18時までと早い時刻に設定されていたことだったが、13時に名古屋を出て、17時40分には平湯バスターミナルに着くことができた。穂高荘倶楽部はそこからほど近い。平湯温泉発祥の地である神の湯のはす向かいあたりとなる。

 受付で、チェックインの手続きを済ませる。仮眠室の客、曲がりなりにも宿泊目的である事が明らかな客であるためそれなりにチェックインの手続きも発生するが、飛び込みの入浴客に対してはどうやらチェックイン手続きも簡易に済んでいるように見える。普通の入浴受付の終了時刻は22時のようだが、それでも仮眠室があてがわれないだけで、オールナイトで滞在することはできそうだ。

 館内設備は、リラクゼーションリームやくだんの仮眠室以外は、穂高荘山がの湯本体と共用になっているようだ。つまり通路でつながった別棟の浴室は、旅館本体の宿泊客も利用する大浴場のようで、さすがに見事な物である。というか、立ち寄り湯施設が入っている東館も、上層階は一般宿泊客向けの客室となっており、内部は割と入り組んだ構造になっている。外出は可能らしい。外で食事を取ることもできそうだったが、平湯温泉で食事のできる場所はごく限られているため、結局建物の地階にあった食事処で夕食をとった。さすがにこちらへ旅館の客が来ることはなさそうだったが、飛騨牛の何某をはじめ、和風旅館顔負けのメニューを、三千円前後と相応の値段で提供している。宿代が安価なので食事くらいは豪勢にしようかとも思ったが、結局蕎麦や飛騨牛の筋丼など、安い方のメニューを二品頼んで済ませた。それにしても、なまじ入れものが温泉旅館並みであるため、世間並みの健康ランドやオールナイトサウナに泊まる場合には感じない、名状しがたい侘しさを感じたのも事実である。持てる者と持たざる者が至近距離で過ごしていることに起因する物なのか。

 寝床となる仮眠室は、一畳ほどのスペースに布団が延べられており、頭周りを除けば他の利用客との間に間仕切りがない。ただ、隣の客に体が触れたりするほど接近しているわけでもない。これが特別仮眠室だと、目隠しにはなる程度のついたてが存在している。いずれにせよ、室内にいびき客がいた場合にはその音に悩まされることになると思われる。意外だったのは、各ブースにコンセントがあったことで、これのおかげでスマホの充電ができたのはありがたかった。そんなものは期待していなかっただけに、携帯充電器を持参していたのだが、持ち込まなくても済んでいたのかもしれない。ただ、完全個室ではないので、カプセルホテルやサウナのように独占利用できる据え置き型のテレビはない。施設内にもPC、雑誌やコミックのコーナーはないため、どうかすると時間の潰し方には困りそうである。まあ、今回に関しては豊富な電力を武器に、スマホのゲームで時間を潰したり、温泉につかったりして夜更けを待った。

 総じて、仮眠室込みでも都市部のオールナイトサウナ、健康ランド、スーパー銭湯の類より安価である。仮眠室でなくとも、そこそこ快適には眠れそうな環境なので、風呂に入って寝るというそれだけのことを求めるのであれば、だが。貧乏な一人客が、乗鞍岳や焼岳、福地山など近郊の山や上高地を狙う時の選択肢としては有用である。この場所にこういうものがある意義は大きい。細く長くでも続いていって欲しい施設だ。金があれば、1万なんぼから2万円を払って、一人客を受け入れてくれる温泉旅館に泊まるという選択肢もあるのだろうけれど。
平湯バスターミナル。奥飛騨観光のハブであり、立ち寄り湯や土産店もある。

平湯温泉へ。当然のことながら、天候は思わしくない。

今回は、観光回。温泉街をぶらぶらしながら、宿を目指す。

平湯民俗館。

今晩の宿・穂高荘倶楽部。施設は簡素だが、建物が新しく内装もきれいだ。

 
アクセス JR高山駅より濃飛バス「新穂高ロープウェイ」下車。ロープウェイで「西穂高口」駅へ。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]20 岐阜県の山 山と渓谷社
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