立山・その1
嵐の高峰
■標高:3003m
■歩行時間:4時間30分
■登山日:2013年8月24日

    立山は、日本三霊山のうちの一座である。同じく北陸地方を代表する名峰である白山とは、奇しくも三座の中の二座を分け合っている。押しも押されもせぬ名山でありながら、学生時代を金沢で過ごした私は、これらの山に対し格別の興味を持つことはなかった。ただ、金沢市街からまともに見えないためにあまり印象に残らなかった白山と違い、アルバイトで出かけた魚津の街中から見えた、雪を頂き青白く輝くような立山の山並みは、鮮烈なまでに印象に残っている。時に11月頃のことだったと思う。このときに私が見たのは、厳密に言うと立山連峰である。これまた白山と通じる物があるが、立山と言う名の山は存在しない。慣用的に立山連峰のことを立山と言ったりもするが、より狭義では、立山黒部アルペンルートで名高い室堂平から登れる標高3003mの雄山とその周辺の山を立山と呼ぶことも多い。



 私が今回狙ったのは、雄山、大汝山、冨士ノ折立の立山三山を皮切りに、真砂岳、別山と縦走して室堂平に戻る周回コースで、これだけ回れば立山に登ったと言って良いだろう。ヤマケイ分県ガイドの富山県版に載っているそのものズバリのコースで、決して楽ではないものの、日帰りコースではある。本格的な登りは雄山山頂までに存在するばかりで、後は里程こそ長くなれ、アップダウンはそれほどでもないため、3000m前後の高度であっても、わりあいに安定して歩けるのではないかと思われるコースだ。

 問題は天気の方で、決行を週末に控えた月曜日、週の後半の天気が崩れると言う予報が出ていた。天気の回復、というよりは天気の谷間の到来が早まることを願いながら週末を待ったが、金曜夜に富山市入りした時点で、現地の空はしとしとと続くような雨を降らしていた。この夏にあちこちで被害をもたらした、バケツの水をひっくり返したような豪雨ではないけれど、これが明日午前中までにどの程度回復するか。立山黒部アルペンルートへのとっつきになる電鉄富山の駅前付近にある東横イン富山駅前Jr.(ジェイアールではなくジュニアらしい)に泊まり、天気に関する情報を集める。しかし、思わしくない。実のところ、私が今回最も危惧していたのは雷の脅威だったのだけれど、NHKのニュースは立山から遠くもない黒部五郎岳で落雷被害にあった登山者のことを報じていた。いずれにせよ今回の山行は、富山までの足代、今夜の宿、明日の宿(松本)と資本を投入しているため、山に登れようが登れまいが、長野県側へ抜ける経路としてアルペンルートに入らざるを得ない。最終的な判断は、室堂まで持ち越すのが既定方針だった。

 翌朝未明。スマホでアメダス予報を確認する。するとどうだろう。下手すれば昼頃まで雨雲が残るかと思っていたのに、予報はそんな悪くないよへいへいへーいである。5:39、電鉄富山駅の始発で立山駅を目指した。雨は既に止んでいて薄日の差していることもあったが、山の方を見ると、やはり濛々とガスがかかっている。そして、連続雨量がかなりの量に及んでいることもあり、列車がややスピードを落として走った結果、立山駅から美女平までのケーブルカーが予定より一本遅いものになり、美女平から室堂までの高原バスも一便遅れる形になった。

 およそ1時間かかる車中、高度が上がるにつれ、バスは霧の中を走るような状況になっていった。それでも一応は、好日山荘で購入した「食べる酸素」オキシジェンジェネレーター(仮)を口に運んで、登山に備える。これが高山病予防に効けば良いが。

 8:10。室堂着。ある意味予想通りというか、あたりは一面の霧に閉ざされている。昨夏の経験から予想していたのより寒いので、上に一枚羽織る。ただ、視界は悪いながら、雨は降っていない。一応、死重量をターミナルのコインロッカーにしまい、登山の可能性を探ってみる。本当に霧が濃い。視界は200m前後といったところだろうか。ミクリガ池の手前にある慰霊碑の辺りまで進んだだけで、室堂ターミナルの建物が全く見えなくなっていた。こんなに白いのははじめてである。もちろん、指呼と言って良いような距離にあるはずの雄山も全く見えない。正直言って、ターミナルすら見えない視界の悪さには、一抹の不安を覚える。それでも意外と多くの人が雄山方向に向かっていく。無事にことをし遂げる確信があってそうしているのか、レミングの集団自殺みたいなものか。訝る気持ちがないでもなかったが、行ける所まで行ってみようという気持ちになり、登山決行に舵を切る。やばくなったら引き返すことを肝に銘じ、8:15、クライムオン、クライムアウト。

 しかし程なく、彼らの自信の源らしきものが分かった。雄山までの登山道は、コンクリートで塗り固めた石畳になっており、これだけ視界が悪くても、少なくともコースをロストする心配はほとんどないのだった。今のところ天候もさほど荒れてはいないから、思ったよりは分の悪い勝負ではなさそうである。とは言え、少し進むうちに、霧は雨に変わって行ったため、雨具を取り出し、これを装備。恵那山行きに備えて昨シーズンに買ったものが、ついにここで日の目を見た。雨は先へ進むうちに本降りになっていた。

 登りはきつくないが、道中で未だに残っていた雪渓を二度横切り、先日来の雨で洗い越しのような状態になっている箇所を渡渉しで、行く手をさえぎるものは少なくない。この山の石畳は滑りやすく、足元が悪いので、いつもよりはかなりペースを押さえながら進む。気温が低いせいもあってか、レインウェアを身につけているにしては、思ったよりも蒸れる感じがしない。これは出発前から気づいていたのだけれど、リュック(ザックと言うほどの物ではない)のカバーがなかったため、荷物は雨ざらし状態だったが、基本的に濡れて困るような物は入っていなかったし、多少の雨ならかばん自体が耐えてくれる。ダウンジャケットだけはビニール袋に入れていた。そしてこれもある意味うれしい誤算だったのだが、そこそこの雨なのに靴に水がほとんど染みて来ない。やはり、ちゃんとした山道具と言うのは、それなりに頼りになるものらしい。

 視界が白く閉ざされる中で、進捗が良く分からない中、8:48に祓堂前を通過。そこからさらに10分で一の越山荘に到着。そのままなおも上を目指そうとしたが、何とした事か、風が強い。高千穂峰の時と同等か、それ以上の強風である。
ミクリガ池越しに一ノ越方向を見上げる。登山日とは別の日の撮影。

早朝の電鉄富山駅。

濃霧の室堂平。

8月下旬でも雪が残る。

とは言え、基本的にはこの水準の登山道である。

 
アクセス 立山黒部アルペンルート室堂より。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]17 富山県の山 山と渓谷社
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