石鎚山・その2
西日本の最高峰
■標高:1982m
■歩行時間:4時間30分
■登山日:2012年8月19日




 試される前者ヶ森の鎖、ジャッジメントチェーン。この先、これ以外にも2箇所の鎖場があり、いずれにも迂回路が設けられているが、鎖場を直行できるだけの力量があるかどうか、まずはここで試せということか。見れば「岩山の反対側が下りの鎖り場で、大変厳しい岩場です。自信のない方は迂回路へお進み下さい。」という看板もある。

 岩壁に付けられた鎖をしげしげと眺める。鎖場の情報自体は事前に掴んではいたが、三ツ瀬明神にあったような、普通の細い鎖が付けられているのを漠然と想像していた。しかし、実際ものを目にすると、独特の形状をしたかなりごつい鎖である。手に取ってみようとするが、自重で岩壁に張り付く形になっており、手元に手繰り寄せるような使い方は出来ない。つまり、私が普段やっているような、体重を鎖に預け、半ばまで腕の力で登っていくような使い方には向かない。急峻な岩壁をよじ登る際、岩場に適当な手がかり足がかりがない時、補助的に鎖に手をかけるのが正当な使い方だと思われる。さて、このまま鎖場に挑むか、迂回路を行くか。どうしようかと悩んでいると、傍らで休んでいたおじさんに声をかけられた。曰く「自分ももう少し若くて体力があったらチャレンジしたかったのだけど」。おじさんの思いを聞いて、代わりに自分が挑んでみようという気になり、とにかく崖を登り始めた。

 やってみると、登って登れなくはない。おじさんのアドバイスによれば、鎖の輪の中につま先を突っ込むような使い方も出来るという。なるほど、ごつい登山靴を差し込むには少々窮屈なこともあるが、鎖そのものを足場に使うことも出来なくもない。岩登りについてズブの素人である私は、岩の窪みを見つけるコツが分からず、とにかくこの鎖に足をかけるスタイル頼みで上を目指した。ここ最近に降雨があったのか、岩場や鎖は湿っており、濡れた靴底を鉄の鎖に差し込んでもグリップが弱く、頼りない。全長48mになるという鎖のうち、結構な高さを登ってきたような気がするし、下を見ればかなりの高さだが、まだ終わりが見えない。

 ふいに気がかりになったのが、反対側が厳しい岩場になっているという、先ほどの看板である。こういうのは、往々にして登りより下りの方が怖い。どうにかここを登りきったは良いが、下れなくなるのではないか。ふとそんな想像が脳裏をよぎる。大事をとって引き返したほうが良さそうな気がする。少し逡巡したが、岩場の真ん中で立ち往生しても仕方がない。ここまで登ってきた高さを下るのもそれはそれで怖いが、下手に高く登れば、いよいよ取り返しがつかなくなるかもしれない。意を決して引き返すことにした。足場の悪さか、緊張のためか、足ががくがく震えるが、幸い自由が利かなくなるようなことはない。思っていたよりは順調に下りきることが出来、下で待っていたおじさんに白旗をあげた。直後、いかにも山慣れた風情の二人組が、確かな足取りで鎖に挑み始めた。上手いものである。が、思ったよりはスピードが出ていない。まあ、スピード優先なら急がば回れの迂回路を採用した方が良いのだろう。時間と体力をロスした徒労感はあるものの、私は迂回路に進むことにした。後に分かったところでは、「試し鎖」とは言いながら、総合的に見るとここの鎖が、何箇所かある鎖場の中でももっともスパルタンなのだそうだ。

 迂回路を5分と歩かないうち、鎖の付けられていた岩場の反対側に回り込むことが出来た。見れば岩の上部には鎖が付けられている。見た目の険しさでは確かにキているが、落ちればただでは済まなさそうだという点では、大差がないのかもしれない。

 進路前方、鎖場を下ったところ、迂回路との合流点辺りに休憩所があり、石鎚登山の名物である「あめゆ」なるものを出しているようだ。どうやら漢字で書くと「飴湯」となるらしい。何となく想像はできるとは言え、実物に興味を惹かれるが、今日は午後から夕方にかけて、雷雨を伴って天気が崩れる可能性が高いという。事前にネットで確認した天気予報では、午後3時を過ぎる頃には雷雲のアイコンが表示されていた。休憩は無しにして、なおも進んだ。先を急ぎ、出来れば午前中のうちに大勢を決したかった。

 鎖場への挑戦は、苦い敗北に終わったが、登山そのものは順調に進展している。鎖場が姿を現したということは、大きなターニングポイントとなる夜明峠は近い。実際、休憩所からさらに10分ほどの歩行で夜明峠に到着。林が途切れたため、ここに来て初めて、石鎚山の全容が姿を現した。山頂付近は岩盤が露出し、いかにも険しい表情を見せているが、幅広の稜線によって特徴付けられる山容は、雄大な一方たおやかな印象も与える。

 夜明峠で小休止後、再び足を踏み出す。一瞬木立が途切れるものの、まだ森林限界を超えるような高度ではないため、道々には間もなく、木々の姿も戻ってきた。この先の道のりは、ほぼアップダウンもなく、登る一方の坂を登り切ったところが山頂となるはずだ。

 少し進んで一ノ鎖と、その前衛に建つ一ノ鎖小屋に到着。一ノ鎖の長さは33mで、試し鎖より短いのに加え、登り切った後で鎖場を下る必要がないため、挑む人も多いようである。見れば、試し鎖よりも傾斜が緩く足場も良さそうだが、私は迷わず迂回路に進んだ。鎖場上部の合流点に到着した時、私が迂回路に入る直前に鎖を登り始めた人は、まだ姿が見えなかった。やはり、岩場をよじ登るよりは迂回路を歩いた方が早いのだろう。さらにその先、最長の65mを誇る二ノ鎖には、大人数のパーティーが大挙して登っており、その嬌声が聞こえてくる。遠目にその様子を見ることも出来るが、人が小さく、列を成す蟻のようでもある。

 二ノ鎖の次は三ノ鎖ということになる。本来なら68mのこの鎖が石鎚山最長の鎖場となるのだが、最近になって近くの斜面が崩落し、小屋も倒壊するなどしたのか、立ち入り禁止となっていた。というわけで、二ノ鎖は、正しくは暫定最長なのである。それを残念に思ったのか、先行していたクラブ活動の中学生か何かは、道の脇にある手摺鎖を使って、三ノ鎖を登っているかのように見せかけるトリック写真の撮影を行っていた。

 この辺りは、金属製の桟道になっている箇所が多く、「おのぼりさん」「おくだりさん」(それぞれ「登りの人」「下りの人」の意)用に真ん中で通路を仕切っているため、道が狭い。なかなか前の人を抜かすということは出来ない。また、登り通路は山側になるから良いが、下り通路は手摺のない谷側になっているのが、そこはかとなく怖い。

 試し鎖で精神的に疲労したのが応えたか、足取りはやや重く、目の細かい金網状になっている桟道上で、何度か躓きそうになった。そろそろ頂上であって欲しいと思いながら、息も荒く坂を登ること15分あまり。ついに頂上山荘直下にまで登り詰めた。石鎚神社の社殿などがある山頂までは数十段程度の石段があり、これが妙に長く感じられたが、とにかく10:56に山頂(弥山)に立てた。狭い頂というわけではないが、建物が何棟か立ち並んでいるのと、思いのほか多くの登山者がいることで、少し窮屈には感じられる。落ち着いて腰を下ろせる場所もない。

 休憩できる場所を探しながら山頂の端の方まで歩いて行くと、弥山の東に聳える石鎚山の最高地点・天狗岳の鋭峰が見えた。石鎚山を象徴する光景の一つが、そこに展開されていた。残念ながらガスが結構出ているため、その姿は白く煙ってはいるが、弥山から続く細い稜線上には、天を衝くような峰に向かって歩く登山者の姿も見える。どうやら多少ガスっていても、歩いて歩けなくはなさそうだ。そこで、往復する間に山頂の人出が減ることを期待して、天狗岳まで行ってみることにした。
迂回路もある鎖場。

試しの鎖。苔むした岩場は、慣れない人間が登るには足がかりが少ない。

夜明峠から見上げる主稜線。

一ノ鎖・二ノ鎖はこんな感じ。

賑やかな山頂。

 
アクセス JR伊予西条駅よりせとうちバス「石鎚ロープウェイ前」下車。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]37 愛媛県の山 山と渓谷社
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