石鎚山・その1
西日本の最高峰
■標高:1982m
■歩行時間:4時間30分
■登山日:2012年8月19日

    日本列島を東西に分かつことを考えた時、その分け方には色々なやり方が考えられるが、多くの場合その中心線は岐阜県内を通ることになると思う。高さが山の全てではないものの、こと標高という点に着目すれば、このことは重大な意味を持つ。3000m峰の連なる日本の屋根たる日本アルプスは、岐阜と長野の県境線とほぼ一致する。端的に言えば、西日本には東日本ほどの高峰が存在しないということになる。そんな西日本にあって、近畿以西の最高峰に位置づけられるのが、愛媛県にある石鎚山である。標高は1982m。



 石鎚山は、役小角によって開山されたと言われる修験道の山ではあるが、昭和40年代に入って交通インフラが整備されたことからアクセスが容易になり、地元では非常にメジャーなハイキング対象となったようである。主な登山ルートとしては、ロープウェイを使って古くからの登山道を辿る表参道ルートと、石鎚スカイラインを経て海抜高度1500m地点付近から登り始める土小屋ルートがある。最短コースとなるのは後者である。いずれのルートも公共交通機関によるアクセスは可能で、表参道ルート行きには伊予西条駅前からの路線バスが、土小屋ルート行きには松山市駅からの高速バスが存在しているが、後者は松山からの長駆となるため、どうしても登り始めが遅くなる。午後から天気が急変することも珍しくない夏の高峰に登るには、ややリスキーに思われたので、今回の石鎚登山では表参道ルートを採用した。

 伊予西条駅前には何軒かビジネスホテルがあり、中にはやはり石鎚登山の客を意識しているらしいところもあるが、ごくありきたりの愛媛観光をしたい気分もあったため、前夜の宿は松山市内に求めることとなった。路線バスが西条駅前を出るのは、8時前のことなので、朝一番の特急列車で松山駅を出れば、バスには十分間に合う。もちろん、伊予西条宿泊ならば朝はもっとゆっくりできるのだけれど。とにかく、私は6時過ぎに松山駅を発つ特急「しおかぜ」で伊予西条駅を目指した。最初の予定ではその名も特急「いしづち」に乗車するはずだったのだが、多客期なので、四国内で完結する「いしづち」ではなく岡山まで走る「しおかぜ」が編成されたものらしい。

 西条駅前は、小さな駅の割にビジネスホテルが2〜3軒あるのが印象的だが、それ以外はほとんど何もない。一軒だけあったローソンで、天候の悪化に備えレインコートを購入。好日山荘で購入したゴアテックスの雨具も、今回の旅では荷物の軽量化のために家に置いてきた。買い物をしても時間があったので、朝食に立ち食いうどんでも食べられやしないかと近所を徘徊してみたが、駅に入っているうどん屋は11時からの営業らしく、まともな食事は諦めた。

 バス停でバスを待つうちに、見るからに石鎚登山目的という風体の乗客が二人と、白装束に身を包んだお遍路さん親子三人、普通のおばさんが一人、やって来た。おばさん以外は、妙に偏った面子である。そうしたところでバスが来て、一同打ち揃って乗り込んだが、道中それ以外の客が乗り込んでくることはなかった。お遍路さんは六十番札所となっている横峯寺を目指して途中下車していった。私も含めたほかの乗客は、結局終点直前のロープウェイ前バス停でバスを降りた。

 ガッツがあれば歩いたっていいのかもしれないが、とりあえずはここからロープウェイに乗らなければならない。にしても、ちょっと見には乗り場がよく分からない。ここ最近利用した穂高や立山黒部アルペンルートのロープウェイのような晴れがましい物を想像していたため、虚をつかれる形になったのだけれど、石鎚のロープウェイは、どちらかと言えば地味で垢抜けない、もとい、奥ゆかしい物で、駅への登り階段も大人しく目立たない構えになっていた。ただ、山麓駅の直前には役行者像を中心に配された多数の仏像が立っており、これには圧倒された。

 さすがにトップシーズンということもあり、臨時便が動いていたため、待ち時間もほとんどなく先に進めた。これは幸いだった。ここで、さっきのバスの中にいたおばさんがおもむろに姿を現し、ロープウェイへの乗客誘導をしていることに気がついた。さっきのバス路線は、本当に石鎚山のために存在するような路線らしい。

 ロープウェイは900mほどの高低差を一気に登り、山頂成就駅へ。ここから石鎚神社の前衛となる成就社までは、自分の脚で歩くことも、リフトで行くこともできるという。持ち前のリフト好きのため、これまでの登山で何度かリフトの誘惑に悩まされてきた私は、ここでもリフトを使おうかと煩悶したが、結局成就社まで約15分を歩くことになった。今回参考にした山と渓谷社の分県ガイドでは、成就社が石鎚登山のスタート地点に設定されており、リフトを使う使わないはスタート以前の問題であった。

 成就社周辺には石鎚登拝(信心のある人は登山とは言わないようである)の客を相手にした宿泊施設や食堂、金剛杖や白衣から土地のお菓子までを商うお土産屋が立ち並んで門前町の体をなしていた。思いがけず賑やかな雰囲気である。ただ、広さとしては知れている。社殿に詣でて登山の無事を祈願し、9:17に登山を開始。

 石鎚山表参道ルートは、歩き始めてすぐに下り坂となる。「八丁の下り」と呼ばれる下りらしく、高度にして100mほどを落とすらしい。帰り道では、最後の最後に100mの登りがあることを意味する。そのことに思い至った時、近々挑みたいと考えている恵那山神坂峠ルートのことが連想された。あのコースも、スタート直後に一山を登り100m近く下るルートだということである。恵那山の標高は2191m。高さが似通っている点からも、石鎚山と恵那山には一脈通じる物があるのかもしれない。一方で、名古屋から見える地元の山というイメージのある恵那山の方が、西日本有数の高峰である石鎚山よりも高いというのは、少し不思議な気がした。

 道は自然林の中を延びていく。樹種はブナが主らしい。良く整備された道で非常に歩き易い。10分行かないほどで、まだ真新しい白木を思わせる鳥居に差し掛かった。「霊峰石鎚山 遥拝の鳥居」とある。山頂まで行けない人のための遥拝所らしいが、ここは下り坂の底にも近く、成就社からはかなり下っているような気がする。本当に脚が悪い人などは、ここに来るだけでもなかなか大変だろう。コース中の最低地点となる八丁までは、遥拝の鳥居から5分ほどの距離だった。路程図があり、現在の標高はおおよそ1300mとなっている。水平距離で言うと成就社からここまで1kmほどを歩いたことにはなっているが、山頂まではまだ3.5km、700m近い高低差を歩かなければならない。

 八丁から先、これまでの下り基調が上り坂に変わり、木製階段が頻繁に姿を現すようにはなるが、ブナ林の中を歩いていくという点においては劇的な変化はない。20分ほど、淡々と高度を稼いだところで、石鎚山第一のアドベンチャーポイント・試しの鎖に到着。
ここが全てではないが、ロープウェイ入口。年季が入っている。

修験の山とは縁深い、役行者。

リフトの誘惑。

登山道本番の開始直前は門前町風になっている。

ゆるゆる下っていくと、遥拝の鳥居がある。

 
アクセス JR伊予西条駅よりせとうちバス「石鎚ロープウェイ前」下車。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]37 愛媛県の山 山と渓谷社
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