南木曽岳・その3
巨大樹の森に分け入る
■標高:1679m
■歩行時間:5時間30分
■登山日:2012年5月26日




 下り始めてから間もなく、下山路であるはずなのに小ピークを一つ上らされた。なまじの休憩を取ったために、体の運びが余り軽快ではない。この登り返しが億劫である。そんなことを考えながら登っていた小ピークは、「金時山」の一名をもって呼ばれ(南木曽岳そのものの異称が金時山とされることもある)、その名の通り、坂田金時の生まれた山だとの言い伝えもあるのだそうだ。その時の私は、そんなことを知る由もなく、淡々と道なりに歩くばかりだった。途中、摩利支天展望台と案内された岩場にも立ち寄ったが、大岩に遮られて眺めはよくないし、摩利支天像があるでもない。そういう碑文の刻まれた、石碑が一つあるだけだった。

 このコースは、これから自分が下っていく先の集落などを眼下に見下ろすことができる。それは思いのほか近くにあるように見えた。これは本当に1時間程度で下れるかもしれない。そんなことを思った矢先、問題は、摩利支天を過ぎた先に控えていた。ほどなく、上から見下ろすと絶壁のような急坂が出現。一応鎖も付けられているが、だからと言って難所であることに変わりはない。しかも、これが一箇所や二箇所ではすまなかった。急斜面はなかなか終わりを見せず、鎖場、ハシゴは延々と続く。頂上に登っても体力的余裕があったので、少し南木曽岳を見くびる気持ちも生まれていたが、この坂は難物である。

 どうやら分県ガイドに記されているルートとは別ルートを下っているようだが、おそらくは同方向の斜面に付けられたコースには違いないのだろうから、蘭側から登ると言うことは、これに近い急斜面を登ると言うことか。もっとも、これだけの斜面になると、下るよりは登る方が楽だろう。たとえ、半ば攀じ登るような形になろうとも、である。それにしても、ここを下っていって、本当に期待している場所に下りられるのだろうかと言う不安も頭をもたげてくる。

 高度はぐんぐん下がるものの、神経をすり減らし、登りとは違う筋肉を疲労させる坂道が連続する。登りの時もそうだったが、落ち着いて一息つけそうな場所もほとんどなく、思っていたより辛い下りである。そんな調子の急坂は、40分ほど続いたところで終わりを迎えた、見れば何かの道標もある。山側からだと裏面になってしまうため、何が書いてあるのかすぐには分からなかったが、表に回りこんでみると、二股に分かれたそれは、南木曽岳山頂への道として、そこで枝分かれするもう一本の道を指すと共に、私が下ってきた道を「頂上からの下山道」と案内していた。事前に書籍で勉強した限りでは分からなかったが、蘭からの道は、登りと下りが別ルートを辿る周回コースとして設定されているらしかった。

 そこからさらに10分で、おそらくは車も走れる林道規格となっているであろう砂利道に合流。そこからさらに15分で、車止めゲートに行き当たった。マイカー利用の登山者は、ここまで車で来ることができるらしく、並びにあった駐車場にはかなりの台数の車が停まっている。私が出会った登山者に比べても台数が多いような気がする。山に入った人の総数はかなりの物に登るのだろう。上の原側の駐車場に一台の車も停まっていなかったのは対照的だ。人と車のバランスがそういう状況だということは、分県ガイドが案内するように、蘭から上の原に抜ける登山者ですら少数派と言うことか。そういう気骨のある登山者が少ないのは、少し残念な気もする。

 そうして車道に出てから先が、先ほどまでとは違う意味で、辛い下りであった。蘭キャンプ場へのアクセス路のような、面白味にかける舗装道に過ぎないのだが、そういうところを1時間ほども歩かなければならない。途中の集落は、一昔前の山村の面影を残しており、多少の慰めにはなったものの、路線バスのバス停にたどり着くまでの1時間は、山中での1時間に比べて、随分と長かったような気がする、

 目指すバス停は、おんたけ交通バスの尾越バス停だったが、国道256号沿いにあるかと思われたそれは、国道から外れた集落の、少々奥まったところに位置しており、見つけ出すのに少し骨が折れた。この1時間の舗装道歩きで思ったより消耗し、とてもではないが妻籠までさらに1時間以上の道のりを歩こうと言う気にはならなかった。蘭から妻籠までは、国道256号一本で結ばれてはいるが、256号が、そこそこ交通量がある割に、歩道もない道だと言うのも、私の意欲をそぐには十分な要因だった。まあ路側帯に沿って歩いていけば、よほど危険もないような道ではあったが。

 こうして南木曽岳攻略は成った。体力的には、この水準の山でも十分に通じることが分かった。ただ、今回踏んだコースは、少々癖が強く、万人に勧められるルートではなかったような気がする。先に触れたように、帰りがけに妻籠宿へ立ち寄ろうと言う助平根性に根ざしたプランだったが、それがためかえって帰りの足に不安を残しているようなところは否めない。南木曽駅までの脚としてはおんたけ交通バスを使用するのが第一選択となるが、これの本数が少ない上に、最終便がどうやら16時直前に設定されていると来ている。今回私は比較的早めに下山することが出来たが、同じコースを標準タイムで歩くと、8時に南木曽駅をスタートして16時に尾越というのは少々せわしなくなる。近在の観光施設・木曽路館からはシャトルバスが出ているようなので、木曽路館に仁義を通した上で(立ち寄り温泉もあるようなのは都合が良い)、まだしも本数の多いこのバスを利用すると言う手もあるし、少々高くつくだろうがタクシーを呼ぶと言う手はあるだろう。

 また、別の観点から検討するとすると、上の原ルートから登った場合、そのコース途上において、山頂で得られるであろう大展望が大方まで予想できてしまうために、頂を踏んだ時のカタルシスが薄いと言う弱みもある。反面、巨大樹の森は、登りであろうと下りであろうと、とにかく実際足を踏み入れてみてはじめてその醍醐味が分かるものだから、どうせ入山地点と下山地点を別にするのであれば、やはり蘭→上の原へと歩いた方が、全般にメリハリのある山行とはなりそうだ。尾越の小さなバス停でバスを待ちながら、そんなことを思った。
避難小屋の存在が物語るように、季節によっては山頂の気候は厳しい。

初夏目前の、気持ちの良い山頂を後にする。

摩利支天。いわれは不明。

鎖なしでも登下降は可能だが、急坂には違いない。

キャンプ場を抜ける。

蘭側からの南木曽岳は、急峻そうでも高くはない。

 
アクセス JR南木曽駅より。
ガイド本 [改定新版]名古屋周辺の山 山と渓谷社
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