南木曽岳・その2
巨大樹の森に分け入る
■標高:1679m
■歩行時間:5時間30分
■登山日:2012年5月26日




 30分あまり歩いて、植林が終わり、雑木林が始まったところが、どうやら巨大樹の森らしい。おおよそ登りの中間地点に当たる。クマザサが生い茂り、これまでに比べると道が悪くなってきたのは、植林地帯が終わったため、営林作業者による保守が行き届かなくなっているということなのだろう。が、ガイド本が書くほどにクマザサが伸び放題になっているかと言われればそうでもなくて、明らかに剪定されて道が確保されている場所もある。地元山岳会の活動の賜物か。

 このあたり、確かに、古木・大木は多い。が、始まりこそ、さほどの木は見当たらず、「『巨大樹』は大仰かなあ」と言う気もしてくる。しかし、ほどなく巨大樹の名に恥じないミズナラの木が出現。さすがにこの森でも大物らしく、わざわざ看板も立てられていて、それによると幹周りが4.8m、樹齢は400年を数えるものなのだと言う。もちろん、古くから自生しているのだろう。400年前と言えば江戸時代の初めである。世の中がある程度の安定を見、山林資源として木曽の山々が人々から注目されるようになった時期と概ね一致することを考えると、感慨深い物がある。このミズナラは、山上のこの場所から、おそらく人々のそうした営みを見てきたのだ。

 巨大樹の森に入る前後あたりから、登山道は右折・南進する。上の原ルート自体は、途中何度か屈曲しながらも、南木曽岳の山頂から延びる尾根上のルートなのだが、この近辺まで来るとまさに「山頂まで尾根続き」の実感もわいてくる。アップダウンはほとんどなく、やっぱり登り続ける道だが、ちょっと急登も増えてくるか。周囲を遮る物が少なくなってくるため、場所によっては、近在の名のある山もその姿を拝めるようになってくる。御嶽山、乗鞍岳も見える。場所を変えれば、中央アルプスの主峰級も見えてくる。伊那谷側から見るとまさに屏風のような中央アルプスだが、木曽のこの場所から見るとまた趣が違う。駒ヶ根辺りから見れば木曽駒など一発で分かるのだが(当然か)、南木曽岳からだと、どれがどの山なのか、もう一つ確信を持てない。

 巨大樹の森も終わり、頭上が明るくなってきた。尾根道から外れた両側斜面には立ち枯れの木が目に付くようになってきた。この辺りはガイド通りである。つまり、山頂が近い。大きな岩も点在し、山頂付近にあると言う「女岩」の存在を予感させる物がある。日の当たる坂道を歩くこと十数分で、蘭からのルートとの合流点に出た。左手に展望台(と言っても大掛かりな建造物はないが)、右手に避難小屋が見える。南木曽岳の山頂は、右手である。

 南木曽町内で一緒に迷子になったおじいさんを別にすれば、ここに来てようやく他の登山者の姿を見た。山頂を目指して歩いて行くと、数組とすれ違った。さらに、山頂付近の岩場には、十名近い中高年団体の姿が。360度の展望は得られない山頂だが、御嶽山、乗鞍岳、木曽裏谷方面がこの岩の上から展望できる。先客は、しばらく岩の上に屯し、大展望に歓喜の声をあげていたが、そうしている間にもどんどん新手の登山者が姿を現し、山頂付近はちょっとした渋滞状態に。こういう場合の中高年集団は、ちょっと始末に負えない部分があるが、狭い山頂に立錐の余地もなくなるより前に、現状に気づいて、山頂を立ち去ってくれた。

 そして私の番である。先ほどまで先客が占拠していた岩の上に立ってみた。山頂に立ったという感慨はあれど、ここから見える風景と言うのは、実は先ほど来の尾根道から見られたそれと大差ない。一方で、蘭側から登って来ると、ここが御嶽その他を望める最初のポイントとなるのだろう。目にしているのは同じ風景ながら、その重みに少し差があるため、私はほどほどのところで、一度素通りしてきた展望台まで引き上げることにした。

 10分ほどをかけて展望台へ。こちらは大展望の得られる場所だ。御嶽・乗鞍はもちろん、視線をそのまま右へ転じれば、中央アルプスの主峰級や隣接する摺古木山や安平路山も見える。それらが一望の下に出来るのは気分が良いが、こちらも先ほどから見えていた風景の総ざらえのような風景ではある。どちらかと言えば、意外となだらかな頂に広がるクマザサの海のほうに、独特の感動が呼び起こされる。クマザサに覆われた斜面の向こうには、恵那山が見えた。

 昼には少し早い時間なのだけれど、雄大な展望のある場所なので、ここで昼食としているパーティーも多い。と言うより、先ほど来出会った人々の全てが、今このときこの場所で昼食を取っているようだ。かく言う私も、ここで昼食とした。8時に南木曽駅に降り立ち、ちょうど正午頃の山頂着を予定していたが、それより1時間早い、11時の到着だった。

 冒頭触れたとおり、同じヤマケイのガイド本でも、分県ガイドのほうは蘭から登って上の原に下るルートを掲載しているが、それによれば、蘭ルートは車でも登れる登山口から山頂まで、標準タイムでも1時間半程度しか登らないことになっている。その分、上の原ルートよりは傾斜がきついようだ。道理で反対側から来る登山者が多いわけだ。昼食に持ってきた蒸しパンをぱくつきながら、そんなことを考える。下りはその、蘭方面へと下っていくことになる。登りで1時間半なら、下りは1時間程度で行けるだろうか。思ったよりは早い下山になりそうだ。早く下りたら、浮いた時間で妻籠まで歩いてみようか。そんなことも考える。そもそも今回、上の原から蘭へ抜けるルートを考えた背景には、一つにはそういう下心があった。

 昼食と言っても、簡単な物である。10分少々で済ませて、11:10には下山を開始した。先ほど山頂に向かった時、次々と新手の登山者が現れてきた道を下るのが間違いないようにも思えたが、そこまでしなくても、道標は見晴台の先に通じる道を下山路として示している。第一、もう一度あそこまで歩くのも面倒臭い。そこで、道標に教えられるまま、先へと進むことにした。
400年を生きたミズナラ。

巨大樹の森の先は、立ち枯れの尾根道が続く。

中央アルプス南部がすっきりと見渡せる。

御嶽と乗鞍。

山頂付近は笹原になっている。

中央奥が恵那山。

山頂からの御嶽山。

山頂は、専ら北ア方向に展望がある。位置的には穂高も見えるようだ。

 
アクセス JR南木曽駅より。
ガイド本 [改定新版]名古屋周辺の山 山と渓谷社
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