鹿島山・大鈴山
設楽町和市周辺の二座
■標高:1011m(大鈴山)
■歩行時間:2時間30分
■登山日:2012年5月4日

    鹿島・大鈴という二座の山があるのは、設楽町内の田口地区近傍である。過去に的にした山としては、平山明神山、及び岩古谷山が近い。そのため、山と渓谷社の分県ガイドでは、鹿島・大鈴のみでのコースコーディネートはされておらず、平山明神を絡めた周回ルートが紹介されている。人によってはこれにさらに岩古谷も含めた四座周回に挑んだりもするようだが、鹿島・大鈴から平山明神方面に向かう際、さらに平山明神から岩古谷に向かう際には、両側面が切れ落ちた狭い岩尾根(ナイフリッジ)や、薄い踏み跡を辿ったりする箇所があるため、初心者が安易に踏み込んではいけない上級者コースに位置づけられている。ただ、周回はともかくとして、登山道がたどる経路の関係上、鹿島山あるいは大鈴山のそれぞれを単独で登る登山者は多くないと思われる。



 奥三河、ひいては愛知県内で尖った所のある山というのは、全て登り尽くしてしまった感がある。元より山の層が大して厚くない地域なので、本腰を入れて山登りを始めるとこうなってしまうのは時間の問題だったのだ。とは言え、土地勘、アクセス、山以外の観光、そしてある種の郷土愛と、諸々を加味すると、残った三河地方の山に全く魅力がないというわけでもない。と言うことで今回は、そんな薄味の物が多く残った三河の山の中で、前々から気にはしていた鹿島山(912m)・大鈴山(1011m)の二座にアタックしてみる。奥三河の名峰が集中するエリアに位置しているので、私も一度は平山明神山を絡めた周回コースに挑もうかと思い煩ったことがあったが、技術の不確かなこともあり、今回は鹿島と大鈴の二座縦走だけで済ませることにした。まあ、縦走というのも口幅ったいほどの物だが。

 交通至便、とまでは言わないにしても、さほど山深くないところにあるのも、これらの山の強みではある。JR飯田線の本長篠駅から田口まで、豊鉄バスが走っているので、公共交通機関での移動も不可能ではないし、名古屋からマイカーを使った場合でも、豊田方面からの山越えではなく東名豊川ICから北上する形にすれば、一応は酷県道を回避してアクセスすることも可能だ。ちなみに今回は、車を使った。

 登山のスタート地点となるのは、岩古谷・鞍掛縦走の時のスタート地点にもなった、和市登山口だ。有体に言えば、東海自然歩道と国道473号の接点となっているポイントで、ある程度の台数が停められる駐車場も備えている。今回も、この駐車場に十台近い車が停まっていたが、どうにか締め出しだけは免れることが出来た。

 とりあえず、車を降りて装備を整えていると、夫婦連れの老ハイカーの、旦那さんの方から声をかけられた。どうやら、登山口が分からないらしい。岩古谷の時には、目の前にある畑沿いの道を漫然と歩いて行ったら、ガイド本通りのコースに出たのだが、いい加減なことも教えられないので、「良く分からない」と答えてしまった。そもそも、ここはわりと色々な山の登山口になっているため、それを知らずして適切な答えのしようもないのだが、自分たちがどこに登ろうとしているのかも明かさず、いきなり「登山口はどこですか」から入るあたり、多分この辺りに慣れていない人なのだろう。よくよく話してみるとまさにその通りで、今日は「鈴ナントカ山から明神山に回る」とのことである。名前もまともに覚えられていない大鈴山、おそらくは経由されるのだろうが名前すら出されない鹿島山が少し気の毒だが、例の周回ルートを踏む算段らしい。と言うことは、当初目指す先は私と一致することになる。

 と、言ったところは分かったのだが、この登山口が本当に分かりにくい。ガイド本を見ると、川の左手、植林の杉木立の中を歩いていくようなことが書いてあるのだが、それらしい木立の中の道は、間もなく踏み跡も定かではなくなってしまうような頼りなさ。付近一帯ウロウロしても、岩古谷に向かう道はすぐに分かるのだけれど、なかなか本命の道が見当たらない。とりあえず、国道沿いの東海自然歩道案内板の方を見に行くと、鹿島山・大鈴山とも自然歩道のコースからは外れているため、地図上には名前の表記すらされていない。むしろ、たまたま見つけた設楽警察署の地域課が掲出している奥三河山岳事故マップの方が目を引く。日本ヶ塚山の熊害、竜頭山の滑落死は現地で見聞きした情報からも知っている。そしてやはり、平山明神でも、死亡には至らなかったが転落して重傷を負った事故が発生しているらしい。多分、上級者向けの岩場から落っこちたのだろう。他、猿ヶ鼻なんかでも死人が出ているようだ。愛知県内でこれまでにクマの存在が確認されたことがあるのは、旧富山村と春日井だけだと言う話だが、それを裏付けるような内容でもある。なかなか有用な地図だと感心する。

 最終的にダメもとで突入した東海自然歩道の田口方面行きが、そのまま鹿島山への取り付きになっていたのだが、それならガイド本には、最初から「和市登山口から東海自然歩道を田口方面へ」などと書いてもらった方が分かりやすかった。まあその東海自然歩道の方も、この場所では一旦国道に出て、沿道の民家の庭先をかすめて林の中に入っていくような有様であるため、ガイド本の編者も気を利かせて、かえって回りくどいような記述をしたのかもしれない。

 そんなわけで、この登山道の出だしは、そのまま東海自然歩道をなぞるものである。当然、そこらの山の登山道より、整備状態で上を行っている。のだけれど、どうやら周りが植林ばかりのところを単調な木製階段登っていく道になるため、あまり面白味もない。この道にしばらく付き合っていくと、田口の町の裏山を抜けて、武田信玄の墓と伝えられる物のある福田寺につくのだけれど、鹿島山への登山道はその大分手前、池葉守護神社前で分岐する。なお、ここまで、神社前も含めて数度、登山道と林道が交差するのだけれど、それはつまりここまで車で乗り入れられるということを意味する。池葉神社は普段は無人の神社のようだが、その隣地が神社の関係者及び作業車用の駐車スペースとして使えそうな広場となっており、車をここに停めておいて、ここから鹿島山にアタックをかけるという手も使えそうだ。和市登山口からここまで、20分弱の登りである。

 前述の広場の一隅から道が延びていく斜面こそが、鹿島山の斜面である。問題はここからだ。さすがに先ほど来に比べると道は大分グレードダウンする。整備された階段と言えるような物はなく、やや薄めの踏み跡をトレースしていく形の道だ。やはり植林の中を、ひたすらジグザグに登っていくだけである。種種のガイド本を見ても、この区間のガイドは非常におざなりで、物によっては、「ジグザグに登っていくと鹿島山の山頂に出る」程度のことしか書いていないものもある。が、まさにその通りだ。20分ほどで登りが終わり、稜線に出たと思ったら、その左手10mほどのところが鹿島山の山頂である。展望はない。代わりに人の背丈ほどの岩が鎮座している。展望は無くとも、単なる岩であっても、アイキャッチになる物があるだけ、顕著な山頂といえるのかもしれない。

 大鈴山へは、この鹿島山の山頂から回れ右をして、稜線伝いに歩くことになる。無論、ついさっき登ってきたジグザグの道を右手にやり過ごしながら、折り返す。鹿島山の頂を踏んだ直後に大きく下って以降は、小さな上り下りを繰り返す道だ。ここのところ、三ツ瀬明神、御在所岳と、三河の並みの低山よりはワンランク上の山を歩いてきたためか、やや物足りないほどの道だ。それでも水平距離はややあって、20分ほど歩いたところで、平山明神分岐に差し掛かった。音に聞くナイフリッジの岩場と言う物がどんなものか興味があり、見るだけ見て引き返そうかと思ったが、案外と距離がありそうだったので野次馬根性は抑えて、大鈴山の攻略に専念。分岐後、最後に少しまとまった高度の登りを経て、大鈴山山頂に到着。登りはじめから1時間ほどの道のりだった。

 鹿島山と違って、開けた印象の山頂である。展望があるのは東西方向中心だが、方角的に顕著な山容の山や盆地に広がる箱庭のような街並みと言ったものが見えないのは少し残念だ。辛うじて、木立の向こうに平山明神の奇鋒らしき物が見える。

 それにしても、今日は天気が良くない。空はどこか胸苦しいような鉛色だ。天気予報によれば降水確率は低いようだが、山の天気は何とやらと言う。さほど危険を感じる道行きではなかったが、山中で雨が降り出すような状況は、できれば避けたい。山そのものは早めに下って、その後で色々立ち寄ろうか。そう思い立ち、大鈴の山頂に10分ほど留まった後、下山した。

 ところで、ちょうど私が山を下り、和市の駐車場付近で帰り支度を進めていたまさにそのタイミングの12時少し前、さほど離れてもいない三ツ瀬明神の岩場では、家族と登山に来ていた静岡県の男性が、ハシゴから滑り落ちて亡くなっていた。三ツ瀬明神のハシゴと言えば、山道としては特別に危険な場所ではないはずだ。同じ紙面には、白馬岳で前日来遭難していた6人の死亡が確認された記事が載っていた。さらには同じく北アルプスの爺ガ岳でも女性が一人遭難死したのだという。いずれもが60代以上の高齢登山者で、しかも半素人の私の目からでも無謀に見える登山を強行した挙句の横死だったようだ。
東海自然歩道に相乗りする道標。地元か、そこら辺の登山者によるもの?

墓参用の私道に見えるが、山はこっち方向である。

大杉のある池葉守護神社。

東海自然歩道と比べると道なき道のようでもあるが、一応踏み跡は拾える。

鹿島山の山頂・展望はない。

平山明神への分岐。「初心者危険」とある。

大鈴山の山頂。視界は狭いが、ある程度は展望がある。

一部に田口の街並みを見下ろせる以外は、ひたすら山並みが続く。

 
アクセス JR本長篠駅より豊鉄バス「田口」下車。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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