奥三河に名山八選があれば、鈴鹿山脈にも鈴鹿セブンマウンテンがある。むしろ、歴史と全国的な知名度からすれば、セブンマウンテンの方がはるかに格上と言える。ゆえに、登山者数も多い。これらは一応は全国区の山々であるのに加え、名古屋からのアクセスが容易なので、とにかく人が多いのだそうだ。そのため、山頂などに置き去りにされたごみも決して少なくないのだと言う。そうした実情も踏まえ今回は、セブンマウンテンの一つである藤原岳で清掃登山が行われると言うので、これに参加してきた。
清掃登山の段取りとしては、まず表道(大貝戸道)登山口から藤原山荘まで登り、そこを中心にして周辺エリアに散乱するごみを拾うと、簡単に言ってしまえばそういうことになる。藤原山荘は、藤原岳の白眉となる山頂及び天狗岩の分岐点となるポイントで、形式的に「山荘」という呼称は残っているが、現在では平たく言えば避難小屋だ。霊仙がそうだったように、風が吹き抜けるため、適期以外はいささか寒い(もしくは日よけとなるものがないため暑い)山頂よりは、食事休憩などに向くため、ここにゴミの残されていくケースが多いようだ。私にとっては、藤原岳登山が鈴鹿デビューとなるため、何もかもが伝聞である。
午前7時半。総勢二十名弱の清掃登山隊が登山口に集結。さほどの高山ではないのだが、私以外のいずれのメンバーも、いかにも岳人と言う装備をしており、私がそこから浮き上がること夥しい。8時を前にして、登山口を出発する。ここから、「先達」に導かれるまま藤原岳の山道を登っていく。客観的には、決して楽な山ではないはずなのだが、ゆっくりとしたペースメイクをしてくれるため、ほとんど疲れを感じない。否、周囲の反応を見るに、これでも早いペースのようだが、私本来の歩調よりは、かなりスローペースだ。普段の私の山登りとなると、ゼェゼェと肩で息をしながら、限界近い速度で休憩も取らずに登り続けるマゾヒスティックな山行が多いのだが、ペースを落としただけで息一つ切らさない登山が出来るものなのだと感心する。もっとも、それでもしたたかに汗はかいた。行動食を取りながら休憩とか、いつもでは考えられないような、本当の玄人がする登山が続く。難点は、大人数での行軍となるため、途中で気ままに写真を撮影したりといったことが出来ないところか。
8合目辺りまでは同じような樹下の道が続く。8合目から9合目までの間は、急峻さを増す目の前の斜面を一気に駆け上り、高度を稼ぐのだけれど、9合目から避難小屋までの道のりは、さらにこの道のりを上回って長い。とは言え、今回に関してはさほど苦もなく登れてしまった。技術や装備はともかく、体力面においては、どうやら私のレベルでも、本格的に登山をしている人たちに通用するようだ。
登りはじめからおよそ2時間強で、山荘に到着。ここで一旦自由行動となったため、目の前に見えた藤原岳の山頂へ向かう。結構距離がありそうに見えたのだが、意外にも20分ほどで登りきることが出来た。藤原岳の山頂には、周囲に遮るものとてない展望が広がっているが、やはり吹き抜けていく風が冷たい。
今回は時間が限られているため、ほどほどのところでベースとなる山荘まで引き返す。そこで食事を取った後は、いよいよ清掃の開始だ。最初にここに来た時から気づいていたのだが、確かにガラス瓶の破片や、今は見かけなくなったプルタブが地面に多く散乱している。半分土中に埋まったビンや缶、割れた陶器のかけらなどが多く見つかり、持参した容量10リットルの名古屋市指定ゴミ袋は短時間で満杯になってしまった。もっとも、集まるゴミは年代物が多い。20年から30年ほども前のデザインの缶や、そこから離れた前述のプルタブなどが目に付く反面、ペットボトルなどはほとんど見当たらない。缶ばかりが古いというわけでもないのだろうから、製造年代を読み切れないビンにしても、同じように古い時期のものが多いのだろう。察するに、ゴミが多いとは言うものの、最近になって捨てられたものが多いというよりは、一昔前に大量に投棄されたゴミの後始末をしていると言うのが実情なのだ。聞けば、一頃の藤原岳山頂には、スキー場があったと言う。その負債を今になって処理しているのだろう。まあ、今日び山にゴミを捨てていくなどと言うのも流行るまい。最近のゴミがないところに、公衆道徳の高まりを感じられたのは心強い。
全体である程度のゴミを回収したところで、山頂周辺の雲行きが怪しくなってきたため、ゴミ拾いを打ち切り下山を開始。雨に濡れた石灰岩質の山道の滑りやすさに手こずりながらも、1時間あまりで登山口まで下りきった。下山後、ゴミの総重量を計ったところ、100kg以上になった。この規模の清掃登山の成果として、多いのか少ないのか、良く分からない。
今回、普段はなかなか体験できない企画に参加できたのは僥倖である。もっとも、単純に山登りを楽しむのであれば、やはり少人数の気楽なパーティーで、純粋に山登りそれ自体を楽しむに限ると思ったのもまた、事実である。 |
|
今回、写真はあまり撮れなかったのでいきなり藤原山荘。
この山域の山らしく、山頂周辺には石灰岩が多く散乱している。
写真では分かりにくいが、員弁方面の町並みも見える。
草原のような中を、山頂へ向かう。
山頂。奥の山塊は御池岳あたりか。
|