御嶽山・その2
木曽の御嶽山に登る
■標高:3067m
■歩行時間:5時間
■登山日:2011年7月24日




 しばらく低山ハイクと見紛うような区間が続くが、その中でも道は少しずつ急峻さを増していく。登り始めがすでにしてかなりの高度であったため、道沿いの植生も、知らず知らずのうちに高山帯のそれに変わっており、背の高い樹木はなりを潜め、人の歩くところ以外は一面ハイマツの園という風景が現出していた。

 そして、比較的見通しの良い斜面の真ん中には、またしてもお社である。いや、普通のお社というよりは、冬場には相当の厳しさを加えると思われる御嶽の自然に対抗するためか、仏像を格子と屋根で囲い込んでいるもののようにも見える。そこに祀られているのは、金剛童子像だ。すぐ近くには、覚成行者の像も祀られている。

 そこから10分ほど歩いて、石室に着いた。ここが8合目だ。この小さな小屋は、荒天の時などの避難小屋なのだろうが、おあつらえ向きに、この頃には田の原の駐車場から見えていたガス地帯に踏み込んでいた。展望が遮られる程度のガスで、ここから雷雨に見舞われたりするほど天候の大崩れはないはずだが、少し気になる状況ではある。

 ゴロゴロとした浮石も多い、岩場の道をなおも進む。途中、富士見岩などと言う、天候がよければ富士山さえも見渡せたのではないかというポイントも通過したが、ガスにまかれて、少し距離を置いただけでも石の標に刻まれた「富士見岩」という文字の判読も困難になる状況だ。もっとも、そんな状態でもここ御嶽では、なかなか登山道を見失ったりするものではない。登山道が、明白にハイマツの途絶えた岩場となっているためか、それとも過去に例を見ないほど多くの登山者が行きかう山道だからか。

 やがて、地形の具合によるものか、少なくとも登山道の周囲だけは視界がクリアになるエリアに出た。気が付けば、横手の谷筋に雪渓が残っているのが見える。気温も低くなっており、かなり登ってきたのが実感として分かる。そして、視線を山頂方向に向けると、王滝山頂にあるという山荘が、かなり近くに見えるようになっている。とりあえずもうひとふんばりと、気合を入れなおして登っていくと、再び姿を現した石室と「九合目石室」の石柱。8合目のそれを行き過ぎてから、経過時間にしておよそ40分。単純計算で行くと、ここから山頂までさらに40分かかる道理だ。

 そのことに思い至り、げんなりしたものの、それにしても山荘までがいやに近く見える。実際、御嶽神社頂上奥社本宮がある王滝山頂までは、そこから20分とかけずにたどり着くことが出来た。が、ここは一般に御嶽山と呼ばれるいくつかの峰の中の最高峰ではない。最高点はもう少し北方にある剣ヶ峰である。

 火山らしく、硫黄の匂いの漂い始めた山頂地帯を歩く。王滝山頂から剣ヶ峰までは、八丁だるみと呼ばれる低地まで一度下り、もう一度登り返さなければならない。その最深部、何らかの宗教儀礼の舞台装置となっている数対の仏像や、なんだか本当にもにゅもにゅっとした形のモニュメント越しに見る剣ヶ峰の山頂は、まだかなりの後方に見える。数十メートル上か。百メートル上か。

 それにしても、この辺りまで登ってきて、自分の体に起こっている変調に、ようやく気がついた。いや、来るべきものが来たと言うべきか。高山病の入口だ。痩せても枯れても3000m峰である。ちょっと動いただけでも、すぐに息が上がってしまうし、何より息苦しさに見舞われて歩みを止めると、気のせいでは済まされない頭痛とめまいに見舞われる。脚が萎えているわけでもなければ、エネルギーが切れているのでもないのに、先へ進むための活力が削がれていく。初めての経験であるだけに、対処法が上手くつかめない。

 ただ、この症状が出始めてから、剣ヶ峰の頂上に着くまで、大して距離がなかったのに救われた。11:10、剣ヶ峰の頂、すなはち御嶽山頂3067mに到達。空気の澄んだ晴天時なら富士山も見えると言うことだが、ガスのため、展望らしい展望は全くない。辛うじて眼下に、神秘的なブルーの湖水を湛える二ノ池の湖面が見えた。水の干上がった平地のような一の池も見える。が、それらの奥にあるはずの摩利支天岳は、やっぱりガスにまかれてその姿を見ることが出来ない。ここ剣ヶ峰の山頂には、日光が指すまでになっているのだけれど。

 山頂では昼食を取る予定である。しかし、ここはやっぱり御嶽神社の境内になっていて、果たして飲み食いが許されたものかと思っていたのだが、良く見ると、山頂の縁のあたりのガレ場に腰掛けている登山者のほとんどが、昼食タイムを取っている。「あの辺りまで行けば御嶽神社ではないのだな」と判断し、自分も同じように適当な石に腰掛け、持参したアップルパイを食み始めた。実は気圧減で袋がパンパンになっているのを期待していたのだが、なぜか袋はつぶれていた。どこかに穴が開いていたと言うことか?

 パイをむさぼっていると、背中の方から太鼓の音が聞こえてきた。見ると、信仰登山の一団と思われる人が、山頂に建立された小さな社に向かって座し、礼拝を始めている。そういう状況下で飯を食っているのがなんだか後ろめたい。そんなことを考えていると、追い討ちをかけるように祝詞が上げられ始めた。自分が度し難い俗物のように思われた瞬間である。
金剛童子。あかっぱげから10分ほどだが、すでにハイマツ地帯。

覚成行者像。

八合目石室。

ガスのかかった高山地帯を行く。

王滝頂上の御嶽神社頂上奥社本宮。

八丁だるみから剣ヶ峰を見上げる。

剣ヶ峰の頂上。

ここが御嶽の頂。

 
アクセス JR木曽福島駅からおんたけ交通の路線バスがあるが、日帰りには向かない。
ガイド本 新・分県登山ガイド[改訂版]15 長野県の山 山と渓谷社
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