日本ヶ塚山・その1
愛知県最奥部のハードコース
■標高:1107.3m
■歩行時間:5時間
■登山日:2011年5月21日

    再三書いているように、愛知県は全国的に見て低山県の部類に入る。その愛知県の最も奥深いところにある日本ヶ塚山も、標高は1107.3mしかないが、登りはじめから山頂までが長く、尾根筋直登の登山道が付けられていて傾斜も厳しいため、県内ではタフな山として知られる。山深いこともあって、気楽なハイキング対象というよりは、もう少し敷居が高い感じであるものの、自然は豊かである。山名は、資料によっては「二本ヶ塚山」としているものもあるそうだが、二つのピークと、そこからほぼ平行に伸びる二本の支尾根を持つ山容から、そのような名になったと解説されることが多い。



 ハードな低山ハイクを求め、豊根村の日本ヶ塚山へと足を運ぶことにした。1年余り前に登った八嶽山と同じく、秘境・旧富山村内の山である。従って、アプローチが難しい。八嶽山は、まだしも飯田線大嵐駅からの訪問が可能だったが、日本ヶ塚は富山の中心部からも4km近く離れ、駅から徒歩で移動するのは厳しい。さらに飯田線で来れば、帰りも当然のごとく本数の少ない飯田線を捕まえなければならないのに、山行それ自体が比較的に長行程となるので、公共交通によるアクセスの困難さに拍車がかかる。そのためガイド本の類では、公共交通機関利用の場合は、日帰り登山を諦め、登山口付近にある民宿「嶋開都」か、古里とみやまバンガロー村を拠点にしての登山にせざるを得ないとしている。

 今回は、豊川市内を起点にして、マイカー利用の日帰り登山体制で挑んだ。富山まで、カーナビの言うとおりに走ったところ、国道151号を長野県阿南町まで走り、そこから南へ折り返す経路になったが、どのような道を選ぶにせよ、似たり寄ったりの悪路でしか富山村域に近づけないのは、八嶽山のとき書いたとおり。インターチェンジなどのある豊川近郊からの所要時間は、2時間半から3時間と言ったところになる。

 午前10時、登山口となる古里とみやまバンガロー村に到着。ガイド本では、車はここに停めておけと、さらっと書かれていることが多いが、いかに田舎とは言え、無断・無賃の駐車に対しては、それなりに神経を尖らせているらしく、普通車は200円を支払って駐車するように張り紙がされている。もっとも、料金支払いのちゃんとした窓口があるわけではなく、川の反対側にある民宿のおばちゃん(どうも直接バンガローを管理していると言うわけでもなさそうだったが)に何となくお金を渡し、それで済んでしまった。

 二昔前の県内登山ガイドによれば、日本ヶ塚の登山道は踏み跡もはっきりせず、正しく深山幽谷の趣だったようだが、一昔前の昭和の終わり頃、当時の富山村が、登山道を整備したと言うことである。バンガロー登山口から稜線上(俗に言うニセ日本ヶ塚、ニセピーク)までの区間をAコース、ニセ日本ヶ塚から日本ヶ塚山頂までの稜線を歩く区間をBコース、日本ヶ塚山頂から中沢登山口までの区間をCコースと設定している。キツツキの子と思われるキャラクターがあしらわれた日本ヶ塚登山道の案内図は、古色を覆い隠すべくもないが、基本的には事前調べしてきた情報とも一致する内容が示されている。今回は、Aコースから順にBコース、Cコースと回り、県道沿いにバンガローまで戻る、この山を登る場合にはごくオーソドックスなルートを踏むことにする。同案内図によれば、コース上ではニホンザルやカモシカとも出会えると言うことのようだが、それとは別に、豊根村及び富山駐在所が出したと思われる速報によれば、やっぱりクマにも出会える山だということだ。クマに関する話だけ、掲示物そのものも、載っている情報も新しいのが空恐ろしい。平成21年9月10日には、山頂付近で男性が熊に襲われて軽い怪我を負ったという。くわばらくわばら。

 と、クマ情報に肝を冷やしながらも、今回は不覚にも鈴を持っていなかったので、鳴り物は同行者に任せることにして、登山を開始する。登りはじめこそ山腹を巻きながら上を目指すコースとなっているのだが、間もなく道は、ニセ日本ヶ塚付近から北に延びる尾根の上に出、以後のルートは概ねこれをなぞっていくことになる。結構きつい傾斜で登り続けるハードな道である。周囲が杉の植林となっているため、時々は人工的に均されたかのような平坦地になることもあるが、基本的には長く険しい急登と、息抜きのような小ピークを繰り返す、トータルで見るとなかなか骨の折れる道だ。自然林のあるところは、新緑の美しい時期だが、展望には恵まれない。杉林を進む時は、どちらかと言うと陰気な、林床の暗い道を行くことになる。

 今回は同行者があるので、お互い付かず離れずの、普段の私からすればかなりののんびりペースで推移して行く。急登の終わる、キビウ峠へと繋がる稜線上の道まで、1時間半ほど。5月の下旬とは言え、夏のような陽気の日となったため、体力の消耗が予想以上だ。飲料として、500mlペットのアクエリアス1本しか持参してこなかったのが悔やまれた。

 植林が途切れ、ニセ日本ヶ塚に至るまでの稜線は、右手の木々が切り払われている。獣害除けなのか、かなり長い距離に渡って網目の大きなネットがめぐらされているが、茶臼山や萩太郎山も遠望出来る気分の良い道だ。

 事件は、こんな場所で起きた。

 進行方向右手前方の茂みが、大きく揺れた。つられてくだんのネットが周囲の茂みを揺らした。しかし、風にしては不自然な揺れ方だ。おそらく、何かがいる。動物だ。しかも音の感じからすれば、リスや野うさぎ、山鳥もしくは蛇の類のような小動物が潜んでいるのではない。少なくとも、サルかイノシシ以上の体躯を持つ動物の仕業と思われる、割と重量感のある葉音がする。もちろん、クマである可能性もある。むしろ真っ先にそれを想像し、胸の痛みを覚えるほど驚いた。

 が、こういう場合、パニックになって、「敵」に背を向け逃げ出すのが一番良くない。ネットの存在が私の心に幾ばくかの平安をもたらしたこともあり、どうにか平常心を保ちつつ、少しずつ後退する。先ほどの茂みは、風が吹き抜けているわけでもないのに、やはり揺れている。前述したとおり、今回は鳴り物を持っていないので、手を叩いてみたり、クマが嫌うと言うペットボトルをペコペコさせた時の音を立ててみる。すると今度は、明らかにこちらの行動に反応して、三度茂みがガサガサと音を立てた。少しも逃げようとする気配がない。これは、マズイ。今回の登山は途中で撤退か。そんなことを考え、稜線上から少し下って、遅れてやって来るはずの同行者を待つ。しばらくすると、盛大にクマよけ鈴の音を鳴らしながら、待ち人が到着。
自然しかないが、バンガロー村はきれいだ。

急な登りが続く。

愛知県で最も山深いエリアながら、稜線までしっかりスギ林が続く。

稜線上で、それは起こった。

 
アクセス 公共交通機関利用による登山口までのアクセスは難しい。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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