霊仙山・その3
カルスト地形の山頂を目指して
■標高:1094m
■歩行時間:5時間
■登山日:2011年5月4日




 谷山谷登山道は、明確に上級ルートと設定されているわけではなさそうなのだけれど、要所に設置されている手書きのコースガイドを見るに、歯応えのあるルートのようだ。道標の素朴さ(?)からして、樽ヶ畑登山道より大規模な整備はされていないように思える。実際少し進むうちに、切通しのように、両側に斜面が迫る狭い道になるのだけれど、やがて足元がぬかるみだした。登山道というか、水みちというか、涸れ沢というか。そんな雰囲気である。行く手を遮る倒木も多い。さらにどう言うシチュエーションなのか、その倒木のうちの一本に、白骨化したカモシカか何かの前足2本と頚椎だか背骨だかがぶら下がっている。最初は何なのか分からなかったのだが、悪いことに、ちょうど顔の高さに問題の背骨が垂れ下がっていた。そのため、すれ違いざまにそれを目の当たりにしてしまったのだが、一部残った腐肉にハエがたかっている。「事故死」とは考えにくい状況だ。モズの早贄ではないが、一体、カラスや猛禽類にこういった芸当が可能なのだろうか。不心得な人間のいたずらならまだ良いが、もしかして熊か?不気味さと同時に、肌が粟立つような恐怖を感じる。これで心が折れた。この道を選んだことが間違いだったのではないかと、後悔し始めていた。

 が、幸か不幸か、まだこの道を登ってくる人とすれ違うのもまた事実である。もう少し行けば状況が好転するのではないかと、期待する気持ちも生まれ、気を取り直して、谷山谷登山道に付き合ってみようという覚悟も出来た。もっとも、今になって考えてみればこのルート、登るに楽ではない道であるのはもちろんのこと、下りともなればいっそう難渋する道であったと言わざるを得ないのだが。

 足元の悪さに、下りでありながらさほど進捗が良くないのを感じながら、歩き続けること10分余り。横道登山道との分岐に到着。説明によれば、横道登山道は歩きやすく景観も楽しめるルートなのだという。横道登山道の歩き易さはともかく、谷山谷登山道の歩きにくさはすでに実感できていた。さらに谷山谷登山道を下っていけば魔洞道口というポイントに到達するようだが、不知火幻庵さながらのおどろおどろしい名前と言い、これ以上進んだ先は本当に魔界の入口なのではないかと、迷信がかった妄念に駆られ、迷うことなく横道に進路を取った。

 なるほど、横道は説明に違わず歩き易い道だった。途中、美しが原という、どこかで聞いたような名づけをされたポイントを通過。何かの草が群生していたのだけれど、シーズンになればこれらが花をつけるということなのだろうか。それは良いのだが、横道登山道は、分岐点からほぼ高度を保ったまま、先へ先へと続いて行く。このままだとどこかで大下りをしなければならなくなる道理だが、果たしてその時は唐突にやって来た。台風で道が流されたとかで、急斜面を稲妻の如く頻繁に折り返しながら、時間にして20分近く下り続け、谷川谷本道に合流。

 この道に進路を取った冒頭から、薄々気づいてはいたのだけれど、谷川谷登山道は谷底の道である。まあ、名前からしてそうだ。横道からの合流点付近では、小川の流れを右手に見ていたのだけれど、10分ほど行くうちに渡渉点に遭遇。大股で一跨ぎに出来る程度の流れではあったのだけれど、ここから幾度も川を渡ることになった。水量が大したことはないのでさほど問題はないのだが、時にはそれなりの川幅のところを横切らなければならなかったりする。橋はないので、適当な足場を見つけなければならないが、足場がなければ浅瀬にでも足を突っ込まねばならない。とにかく、せせらぎの右岸左岸を頻繁に行き来することになるのだが、そんな道中なのでしだいに登山道を歩いているんだか、河原を歩いているんだか、分からなくなって来る始末。時折は看板が立っているのでミスコースをしていないことは分かるのだが、半分沢歩きだ。

 そして気が付けば、水の流れも消えうせ、とにかく一面に石が転がり、踏み跡もへったくれも無い水無し川を歩くようになっていた。漂白したように白い岩石が印象的だ。行きはお気楽なハイキング気分だったはずなのに、こちらのルートはかなりワイルドである。ワイルドといえば、野猿の群れにも会ったし、行き倒れの鹿が、何かの肉食動物に腹を食い破られ、河原に横たわっているのも見た。最前のカモシカといい、シカ関係受難の道だ。

 ひたすら川伝いに歩いていけば良いので、道に迷う心配はなく、その点では心安いルートである。しかし、石の転がる河原など歩き易いはずもなく、あまり快調には進めない。変化にも乏しいため、いい加減この道のりに倦んで来たところで、折りよく登山口まで帰着。ただし、ここから最寄となる上丹生のバス停まではさらに小一時間の距離があるため、当然、山頂で胸算用をしていたバスには乗り遅れた。

 上丹生バス停には、霊仙の登山道の面倒を(草の根で?)見ている商店があり、そこの主人のご厚意なのか、バスの待合スペースも用意されているのだが、次のバスをまでは1時間半以上を待たなければならない事態に陥ったため、仕方なく醒ヶ井の駅まで歩くことにした。かなりの歩きを覚悟していたのだけれど、バス停から40分ほどで駅までたどり着くことが出来たため、まあ許容範囲ではあろう。

 さて、最後に今回利用した二つの登山道の評を。谷川谷登山道は、ここまで述べてきたような、なかなか癖のあるルートだ。登りか下りかで勝手が違ってくることはあるだろうが、少々とっつきにくい道であるのは否めない。特に、降雨時や天候の崩れが懸念される時には、川伝いの道であるということに鑑みて、避けたほうが無難だと思われる。よほどこだわりがある場合を別にして、気軽なハイキングを楽しみたいという向きには、迷わず樽ヶ畑登山道を推しておく。山慣れた人には易し過ぎるルートかもしれないけれど。
谷山谷登山道への道は、避難小屋の先から始まる。

進むに連れ雰囲気は変わるが、確かに谷である。

美しが原。信州にあるのは美ヶ原。

谷川の道。熊はともかく、野猿の群れには出会った。

手製の看板によると、びょうぶ岩と呼ばれる物らしい。

 
アクセス JR醒ヶ井駅より湖国バス「養鱒場」下車。
ガイド本 [改定新版]名古屋周辺の山 山と渓谷社
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