霊仙山・その1
カルスト地形の山頂を目指して
■標高:1094m
■歩行時間:5時間
■登山日:2011年5月4日

    霊仙(りょうぜん)山。単純に霊仙と呼ぶことも多い。滋賀県米原市の東部と犬上郡多賀町に跨る山だ。霊仙とは極めて他愛のない初邂逅を果たしている。歴史シミュレーションゲーム「信長の野望」の「烈風伝」は、かなりディフォルメされた日本地図を舞台に展開されるゲームだったが、そのおおよその日本地図の美濃・近江国境付近の1マスにカーソルを合わせた時「霊仙山」と表示されるのに気づいたのが、最初である。ゲームの進行には全く影響しない要素だったのだが、その山名だけを見て、神仙の類が住み、神気に満ち満ちた霊山のような印象を抱いた。後になって調べてみると、実際は標高1084mの、特に深くも高くもない山だということが分かったが、なだらかな山頂付近にカルスト地形が広がっているというのには興味を引かれた。



 そんな霊仙だが、鈴鹿山脈の北端部の山と言う地理的特性もあって冬場の自然環境は厳しい。日本海側から、木の芽峠を越え、江北はもちろん、伊吹山から関ヶ原にかけての地域に降雪をもたらしながら名古屋に抜けてくる寒風「伊吹おろし」の影響を強く受ける場所にあるため、冬季は恒常的な積雪のある雪山となる。そのため、雪消を待ち、満を持してこのゴールデンウィークに挑むことにした。

 霊仙は、東海及び近畿地方ではかなりメジャーな山ということになる。そのため、登山道も数多く、岐阜県大垣市や三重県側から入ることも出来るが、わりあいに一般的なコースとしては、JR柏原駅近くから入山する柏原コース、醒ヶ井養鱒場の奥から始まる樽ヶ畑コース、上丹生集落の奥から始まる谷山谷コースと言ったところがある。今回は、山と渓谷社刊の「名古屋周辺の山」をガイドに、特にメジャーだと思われる樽ヶ畑コースからの登頂を目指す。

 さてこの樽ヶ畑コース、前前回の下呂御前の場合ではないけれど、マイカーを持ってない人間が最寄り駅である醒ヶ井駅から歩こうとすると、登山口までのアプローチが非常に長い。そこで、湖国バスの醒ヶ井養鱒場行きに乗り込む必要が発生するのだけれど、このバスの本数がまた極めて少ない。登山の足になりそうな便を探してみると、7:48と10:02に醒ヶ井駅を出るものがあるだけだ。さらに、ガイド本を見る限り、養鱒場から山頂までの所要時間は3時間見当となりそうである。下山後のことまで込みで考えれば、10時台のバスは使いづらい。と言うことで、7:48の便に乗る事にしたわけだが、いくら奥三河に比べて名古屋からの交通の便が良い滋賀県東部エリアとは言え、この時間に間に合わそうということになると、6時台早々の東海道線に乗らなければならない。そのためには5時には起き出して活動を開始しなければならない。

 山登りのためにこんなに早起きをするのは、実は下呂御前以来の二度目のような気がする。当日は何とか寝坊せず、養鱒場行きのバスには乗り遅れずに済んだ。やって来たのは小さなバスだったが、中高年ハイカーばかりが集まり、車内はなかなかの活況を呈していた。こんなバスに揺られること10分余りで、終点の醒ヶ井養鱒場へ。大半の客がここで下車する中、一部、一つ手前の上丹生バス停で降りた人たちもいた。彼らは谷山谷コースを行くのだろう。

 一応、時間に追われるような道行きはこれで一段落なのだけれど、ここからでも登山口までが長い。推定で1時間ほどかかると思われるが、登山口までの道のりは、車も走れる舗装道で、まだ山登りという雰囲気ではない。おまけに、マイカーを出せる登山客らは、この道を通り、私の傍らを走り抜け、先行していく。妙な焦燥感が芽生え、あまり気持ちの良いものではない。結局、バス降車から登山口までは40分少々の道のりだった。まだ8時半を少し回った時間帯だというのに、登山口直下の駐車場は満車状態で、そこからあふれた車が山の下の方に駐車スペースを探してさまよい出てくる始末。車のナンバーは、名古屋周辺や京都大阪のものが目に付くが、中には湘南ナンバーもある。大した賑わいとは言え、まあ、こういう場合は持たざる者の気楽さを感じはする。

 登山口で、毎度おなじみ「熊出没注意」の看板を見つけたので、百均で買った安物の鈴を装備して、いざ本格的山道に踏み出した。登り始めてすぐ、廃村となった樽ヶ畑の集落に差し掛かる。廃村時期は60年ほど前らしく、建物は一切合財なくなっており、苔むした石垣だけが残る集落跡だ。道は、かつての集落の真ん中を突っ切る形で延びていく。それにしても、まだ崩壊もせず、立派な石垣である。木と土、紙でできた日本家屋は容易に朽ちてしまうが、石組みだけはこうして風雨に耐え続けるものなのだと感心させられる。

 廃村を抜けたところで、山小屋かなや前に差し掛かるが、もちろん休憩するにはまだ早い時間だ。ここは素通りする。立ち寄るとしたら下山路でのことになるのだろう。

 登山口まで40分の歩行は、ウォームアップに過ぎない。まだまだ体力的には余裕がある。道は斜面をジグザグに折り返しながら稜線上を目指している。ここをサクサクっと10分ほどで登りきり、第一チェックポイントとなる汗拭峠へ。その名の通り、ここまでで汗が浮いてきてはいるのだが、狭い道筋に結構たくさんの人が溜まっていて、休憩しようにも、どうにも落ち着かない。ここは、休憩なしで先を目指す。

 ちなみに、汗拭峠は登山道全体で見ると二合目に相当するようだ。高度は五百メートル弱。峠とは言うものの、霊仙から延びる尾根筋の鞍部に過ぎず、道はまだまだ登り続ける。かつては廃村となっていた樽ヶ畑集落からこの峠を越えて、山向こうの集落へ歩いていったのだろう。どうも落合、今畑といった集落に出るようだが、両集落とも、現在は廃村となっている。もっとも、こちら側は1980年前後までは完全廃村の憂き目は免れていたようなので、樽ヶ畑よりは大分後になって人が去ったということになる。

 と、滅び去ったものに思いを馳せつつ、先を目指す。ここから先が、今回の霊仙登山で最大の山場となった区間だ。薄暗い林床の道だった汗拭峠以前と違い、陽のあたる気持ちの良い坂道には違いない。また、べらぼうな急登でもないのだが、だらだらとした上り坂が続く。それに加えて、人気の山の宿命で、人が多く自分の歩き易い歩調で悠々と歩くということが出来ない。基本的にはすれ違いと追い抜きばかりで、自分より明らかに早い人によって後ろからせっつかれることもないのだけれど、追い越した人を気にしながら、気持ち早足になり、ペースを掴みきれず、難儀しながら三合目、四合目と進んでいった。
醒ヶ井の養鱒場と言えば、結構有名なところらしい。

大型連休の最中ではあったが、この駐車台数。

樽ヶ畑廃村跡。登山道は、かつての集落の目抜き通りに相当するようだ。

山小屋かなや。

汗拭峠。まだ先は長い。

 
アクセス JR醒ヶ井駅より湖国バス「養鱒場」下車。
ガイド本 [改定新版]名古屋周辺の山 山と渓谷社
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