三ヶ根山
三河湾を見下ろす山
■標高:325.7m
■歩行時間:2時間
■登山日:2011年1月23日

    三ヶ根山の標高は325.7m。蒲郡市と額田郡幸田町、幡豆郡幡豆町に跨り、奥三河から連なる(と言っても、本宿付近でその山並みは一旦途切れる)山地の末端、幡豆山地に属する低い山だが、周囲にこれと言う高山はなく、しかも南面は何の隔たりもなく三河湾に向いているため、高度の割に好展望の山だ。三ヶ根山頂には、三ヶ根山スカイラインという、ある種無粋な道路が続いているため、車で登るのは極めて容易である。それらの事情のためか、徒歩道の存在を知らない人さえもいるようである。



 今年2011年の山分野での目標は、御嶽登山である。現在のプランでは、実際に登るのは高度差で1000m程になるはずだが、御嶽はまがりなりにも3000m峰だし、日帰りを考えているので、山頂周辺であれもこれもと欲張るには、どうしても基礎体力が必要になる。そのためには日ごろからの弛まぬトレーニングが必要だと思われ、それには実際に山へ登ってみるのが有効だろうと思われるのだが、低山ハイカーにとって冬という時期はあまりありがたくない。愛知県は滅多に降雪・積雪のない地域なのだけれど、そこそこ歯応えのある山がある奥三河となると、冬場は登山道が凍結していたりする。そこで今回は、気候も温暖な三河湾岸にある三ヶ根山を攻めてみることにした。

 JR東海道本線の、その名も三ヶ根駅で電車を降りる。普通しか止まらない小さな駅なので、名古屋からここまでの移動には思いのほか時間がかかる。何にせよ、いくつか存在している三ヶ根山登山道の最寄り駅ということになれば、まずはここ三ヶ根駅ということになる。今回の登頂コースには、「愛知の130山」で紹介されている大沢集落の奥から延びる登山道を選択した。何でもこのコースは、山頂にある三ヶ根観音の参拝道ということだ。それにしても、「愛知の130山」では、三ヶ根山に限って通常の2倍の紙幅を使って登山コースを紹介している。縮尺の小さな地図で三ヶ根山周辺を眺めると、徒歩道と言わず自動車道と言わず、幾筋もの道が走っているのが分かるが、コースの選択も自由自在、しかもその多くが容易な道で、山頂からの展望にも優れることから、低山ハイクのガイド本に掲載するにはうってつけの山ということなのだろう。

 この参拝道は、本格的登山道までのアプローチがかなり長い。駅を出てから、ごく普通の舗装を施されたごく普通の県道を1時間近く歩き、さらに県道脇の奥まった集落へと入り込み、10分あまり歩いたところで、ようやく三ヶ根山登山道の看板に出くわした。さらに進んだところで、やっと舗装道が終わり、登山道らしい登山道が始まる。路傍に古めかしい石の里程標がある、なかなか急な登り坂だが、この山道は長くは続かず、10分ほどで尾根上を走る三ヶ根山スカイラインに出た。ここから先は、登りらしい登りもなく、ほぼ平坦な稜線上を歩くことになる。一応、スカイラインの本線は歩行禁止となっているので脇道を行く。

 まだ新しい石仏や慰霊碑の立ち並ぶ三ヶ根観音周辺を抜ける。慰霊碑は、戦没者に向けたものからカレン・カーペンターを追悼する趣旨のものまで様々で、慰霊碑の見本市状態だ。独特のキッチュが鮮烈な印象を残す。この高さまで来れば、眼下に広がる冬の陽光を照り返す三河湾と、そこに浮かぶ島々、さらにその向こうの渥美半島が美しいのだけれど、観音様周辺のモニュメントとそれらとの対比が何とも言えない。

 珍寺エリアを通過ぎ、山頂周辺でひときわ目立つ無線中継所の方へ歩いて行くが、スカイライン沿いにある、すでに閉鎖・放棄された観光施設が、荒れるに任せた状態になっているのが印象的だ。そう言えば20年ほど前にこの山に来た時は、山頂付近に回転展望台なんていうものもあったが、これは2001年に閉鎖され、今は跡形もなく、当時の記憶を辿ってもそれがどこに位置していたかさえおぼつかない状態だ。

 三ヶ根山山頂付近の最高所は、上で触れた無線中継所のようだが、私の関心を強く引くのはむしろ、その裏手に存在する殉国七士廟だ。その知名度は「知る人ぞ知る」といったところで、地元の人間にすら知られていない反面で、全然関係ない地方の人の中にも知っているがいるというスポットである。これは、極東軍事裁判で絞首刑に処せられた東条英機、武藤章、松井石根、木村兵太郎、土肥原賢二、廣田弘毅、板垣征四郎の七人を祀った廟所だ。不勉強にして、私は東条英機と廣田弘毅しか知らないのだが、廣田以外は皆陸軍の将軍クラス(武藤のみ中将で、他は大将)で、廣田にしても一般には陸軍に近しい思想の持ち主だったとされることが多い。A級戦犯・BC級戦犯の区別もないようで、それらの事実を踏まえれば、旧陸軍ゆかりの施設ということなのだろうか。

 どうも私の認識では、先の大戦は陸軍の暴走の産物と言うことになってしまう。戦争は、避け得る限りは避けるべきものだが、外交の究極の手段として、必要悪として存在しているものだとも思う。しかしそれでも、あの戦争に関しては、その遂行方法に問題が多過ぎ、それが陸軍の体質、また陸軍の軍人にして戦時下の首相であった東条の独善的な政治手法にに起因しており、その責めは免れられないものと感じられる。それゆえにこうした廟にはいくらかのわだかまりを感じないでもない。しかし彼らの所業も、あえて不善をなそうと思って行ったものではなく、方法的に問題はあったにせよ、おそらくは国を思う心意気あってのものだったのだろう。殉国とはつまり、その心意気を買うと言うことなのかもしれない。

 七士廟に立ち寄り、久しぶりに戦争についてずっぽり考え込む機会を得たが、三ヶ根登山としてはこれにて終了の形となった。下りは、三ヶ根駅とは反対側の名鉄蒲郡線の東幡豆駅を目指し、自動車道路沿いに1時間あまりを歩いた。これと言って景色が良いわけでもない下山路だが、山上に残る廃墟と、未だに頑張るかんぽの宿を省み、殉国七士廟を思い出しては、人の世の移ろいと栄枯盛衰をしみじみ感じた。

 三ヶ根山は、真下に控える三河湾や蒲郡の街並みなど、展望の良さは印象に残ると同時に、人工的に開発され尽くした山とも言わざるを得ず、自然美を楽しめるような山ではない。親しみやすいが、人により評価の分かれる山とも言えるだろう。
登山口。スカイラインまでわりと高規格の道が続く。

三ヶ根山スカイライン。稜線上を走る。

スカイライン脇には墓地があり、なぜかカレン・カーペンターの慰霊碑もある。

冬の陽光を受けて輝く三河湾。

殉国七士の墓。

 
アクセス JR三ヶ根駅または名鉄東幡豆駅より。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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