碁盤石山
天狗伝説の山
■標高:1189.4m
■歩行時間:1時間30分
■登山日:2010年11月13日

    今は昔。私の友人に「津具」と呼ばれた男がいた。津具とは、津具村のことである。現在は、設楽町の一部となって消滅しているが、かつては愛知県の東北端付近、北設楽郡内に存在した。一般に山奥のイメージが強い奥三河と呼ばれる地域に含まれるが、村内大半の集落が盆地内に存在し、東隣の豊根村に比べれば、だいぶ開けた印象の土地である。しかしそこはそれ、山岳地帯ということもあって、この地域には種々の天狗伝承が残されていた。そして碁盤石山は、そうした天狗伝説を残す土地の一つである。



 碁盤石の山名は、その昔この山に住んでいたと言う囲碁好きの天狗にちなむとされる。自分こそ天下無双の碁打ちという自負心を持っていたこの天狗、ある時に麓で暮らす碁の名人と対局することになった。勝負は七日七晩に及ぶ長丁場となったが、勝負は天狗の負けと言う形で決着した。この結末に天狗は、悔し紛れに碁盤をひっくり返した。山上に残る奇岩列石は、その時にぶちまけられた碁盤や碁石なのだと言う。

 碁盤石山があるのは、昔で言う設楽町と津具村の境付近だ。津具村が設楽町に取り込まれた現在では、完全に設楽町域に取り込まれていることになる。好事家の間で奥三河の山と言うと、天竜川水系のそれに代表されるような、高度のわりに険しい山容のものが連想されるようだが、碁盤石山はそれらとは違って、比較的に攻略の容易なハイキングコースとして、奥三河名山八選の一つに選ばれている。登山口としては西納倉と東納倉の二箇所があるが、その登山道の全貌を俯瞰すると、どちらかの登山口から入って山頂を乗り越え、もう一つの登山口に抜けるようなコースになっている。今回私は、茶臼山高原道路沿いに存在する西納倉登山口から山頂を目指した。が、一般的には東納倉からのアタックを試みる登山者のほうが多いだろう。理由は最後まで読めば分かると思う。

 さて、私などは茶臼山高原道路と言うといまだに有料道路の印象が強いのだが、平成20年時点で全線無料化されており、公式にはそういう名称の道路はなくなったと言うことになるらしい。現在では単なる愛知県道507号となっている道路脇の駐車スペースから、碁盤石登山道は始まる。登山道自体は良く整備されている部類に入ると思われるが、車を停めるのは駐車場と呼べるほどには整備されていない、未舗装の駐車スペースである。

 道中、木戸洞峠と呼ばれる鞍部を通り過ぎるため、多少のアップダウンはあるコースだが、山頂までの距離が東納倉口に比べて短く、胸苦しい急坂も無いので、登りはじめから30分とかからず碁盤石山頂に到着。山頂は、標高1189.4mに位置しているが、何しろ登山口もかなり高いところにある。いい大人が登るには易し過ぎる道のりだ。一部木立が切れているところから展望があるものの、展望絶佳と言うような、晴れがましさのある山頂ではない。山頂に至るまでも、ところどころから遠くの山並みを望むこともできるが、すごく印象的な箇所があるわけでもない。

 実は、碁盤石山を訪れる多くの登山者がこの山のハイライトに挙げるであろうポイントは、山頂から東納倉側に下ったところにある「天狗の庭」というところである。山腹に開けた開放的な土地で、伝説に言われる岩岩が、広場のような緩斜面に散在し、展望にも優れているという。西納倉から入山した私は、山頂を踏むにいたっても当然ここは未見なので、山頂のさらに先、天狗の庭を目指す。

 山頂から天狗の庭までは、やっぱり20分〜30分ほどの道のりで、特に険しい箇所も無い。途中、クマザサが繁茂して踏み後が消えかかっているエリアがあり、山頂から下っていく場合は初見で下山路を見つけなければならなくなるのが厄介だったが、ここでの迷子にさえ気をつければ特にどうという事もない。

 たどり着いた天狗の庭は、話に聞いていた通り大きな岩がいくつも転がる場所だった。その形は、確かに碁盤碁石に見えなくも無い。すなはち、自然石と見るには形が人為的なのだ。天狗伝承はさておくとして、天狗の庭一帯に残る岩は、かつての山岳修行者が運び込んだものだと言う説もあり、そう考えると天狗によってぶちまけられたと言うよりは、何らかの作為を持って配されたようにも見えてくる。

 復路は、単純に往路を引き返す。途中には、富士見岩と言う展望スポットもある。本当に富士山が見えるかどうかは定かではないが、南アルプスの南端部や、これまでに登ってきた、奥三河の盟主・三ツ瀬明神や、槍のような鋭鋒が目を引く平山明神など、山容の特徴的な山は視認出来た。

 この後は、茶臼山、そして萩太郎山を目指す。
西納倉登山口。背後の道路が茶臼山高原道路。

山頂は林の中にあり、至って地味である。

碁盤石。

時期であれば紅葉の美しい天狗の庭付近。

 
アクセス 公共交通機関利用による登山口までのアクセスは難しい。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
関連サイト

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