八嶽山・その1
ミニ村の主峰
■標高:1140.1m
■歩行時間:3時間30分
■登山日:2010年5月3日

    今では隣接の北設楽郡豊根村に吸収された形となっているが、同村の富山地区は、2005年11月27日までは、富山村と言う一つの独立した村だった。南北朝時代の落人集落に始まる歴史を持つ、ちょっとした秘境だ。ダム湖である佐久間湖に面した山の斜面に営まれた村の規模は極めて小さく、最後期における人口は200人強。「日本一のミニ村」として、離島部の村を相手に日本最小自治体の座をかけて争っていた事もある、一面では非常に個性的な村だ。そこで今回は敢えて、絶えて久しい富山村の呼称を用いることにする。富山村内に存在する平地は、ほとんどが人工的に生み出されたものである。家にしろ道路にしろ、山の斜面を削って造られている。そしてそれらが開かれた山こそが、八嶽山だ。富山村自体が愛知県内で最北東に位置した村であり、その中でも北の外れに屹立する山であるため、山頂から北に向かって下ればそこはもう長野県と言う立地である。標高は1140.1m。



 富山村へのアクセスは容易ではない。公共交通機関を利用するのであれば、JR飯田線の大嵐(おおぞれ)駅で下車することになるが、駅自体は静岡県浜松市天竜区に属する。ここから佐久間湖を渡って村内に入る。しかし何にせよ、ここまで来る列車が非常に少なく、不便である。従って、各種登山ガイドでは、車によるアクセスが推奨されている。ただそれにしても、かなりの悪路を経由しなければならず、難はある。比較的好条件なのは、佐久間ダム側からダム湖沿いに北上するルートか、豊根村側から峠を越えて来るルートなのだが、いずれも狭隘路である。長野県天龍村から南下することも出来るが、主にこの山を目指すであろう愛知県民にとっては、遠回りになることもあり、使い勝手の良いルートではない。

 今回の私は、おとなしく車で富山入りした。入山時の車の置き場所だが、登山ガイドの類では、職員に声をかけて富山村役場(豊根村役場富山支所)の駐車場に停めておくように指示されている。が、折悪しく今回はゴールデンウィーク中の挑戦だったため、支所は閉庁中。声かけもかなわないまま、駐車場だけ使わせてもらうことになった。もっとも、以前に電話で問い合わせた時には、無断駐車したところで実害はないというような返答をもらったことがある。外部からたくさんの車が押しかける心配もないからこその対応だと言えよう。ちなみに、それはそれで不埒な発想だが、村内に路上駐車をする余地はほぼない。

 車を停めて、官公庁(?)が立ち並ぶ村内のメインストリートを西へと歩く。個人商店の西隣、コンクリートの擁壁に階段が取り付けられており、ここが八嶽山登山道の端緒となっている。八嶽山は、「奥三河名山八選」の一つに数えられている山でもある。これらの山で見かける木製の道標が取り付けられているので、場所は分かり易い。まずはこれに従い、本格的登山道の始まりとなる熊野神社を目指すことになる。途中、民家の庭先のようなところを通ったりするため、ごく短い移動距離ながらミスコースをしたのではないかと不安になるような道だ。

 熊野神社は前述した落人、紀伊国住人・田辺藤四郎国量による建立から始まる由緒正しい神社で、初冬の頃には奥三河地方でよく見られる神事「湯立神楽」も行われるようだが、この時期は社叢に抱かれひっそり閑としている。いや、厳密には社叢と言うべきなのか山林とすべきなのかは判然としない。

 社殿の右手奥から、樹林の中を進む本格的な登山道が始まる。スタート地点には、「奥三河名山八選」の「八嶽山大谷登山口」の道標とともに、富山村と設楽警察署の連名による、転落・遭難事故防止の啓発看板も。境内に入る直前に「このあたりの山には熊が出るよ」看板を見つけたこともあり、これから先の道のりに茫漠とした不安感と恐怖感を抱き始める。

 八嶽山の登りは、わりあいと急である。ところどころ踏み跡が薄くなる箇所があり、そう言ったところには昔からの道標も設置されてはいるのだが、それでも二度ほどミスコースをした。三ツ瀬明神の時の失敗が思い起こされる。私には山登りの才能がないのだろうか。慎重に行かねば。途中、特別眺めの良い地点はない。位置関係から行くと、佐久間湖を背負うような形で登っているはずなのだが、振り返ってみても木々に遮られて展望はない。

 熊野神社から黙々と歩き続けること30分。「ニギンジ」と呼ばれる地点に到着。不思議な響きの地名だが、なぜ「ニギンジ」なのかは定かではないし、特別な何かがあると言うでもない。もちろん(?)展望もない。ここから次なるチェックポイント「ハナノキアラシ」までは40分だと言う。実際には「ニギンジ」から30分ほどで移動したものの、「ハナノキアラシ」も地名の由来を想起させるような特別な何かがある場所ではなかった。強いて言うなら、少々作為を感じさせる広い平地が、「ハナノキアラシ」である。ここまでで結構高度を稼いでいることもあり、場所によっては立ち木の隙間から佐久間湖のエメラルドグリーンの湖面が覗けるが、やはり見晴らしの利く場所はない。もっとも、今回は新緑の時期と言うことで森林浴的な山行への期待感が高く、こちらに関しては及第点であった。湖面の深い緑色とは対照的な、柔らかなライムグリーンの新緑はまぶしい。

 「ハナノキアラシ」から先は、登りのキツさのレベルが、もう一段階上がる感じである。胸を突くような厳しさがある。参ったことに、山頂近くはさらにきつくなるような気がする。このあたりまで来ると、道すがらに営林作業用か、モノレールが敷設されている。確かに、周囲の立ち木は雑木林のそれではなく、杉木立となっている。そして、「これに乗り込めたらどれほど楽だろうか」と思い始める。この種のモノレールなら、相当の重量に耐えるはずだ。ちなみに、山頂近くになると木々の枝もまばらになり始め、山麓の様子もある程度見通せる。残念ながら、手持ちのデジカメで撮影をしようとすると、手前の木にピントがあってしまって、遠景がぼやけてしまう程度の見通しである。とにかく、ここまで踏み越えてきた道のりを励みに、最後の力を振り絞る。
村のメインストリートに接続する登山口。

熊野神社。「村社」と言う雰囲気である。

新緑の向こうに佐久間湖が見える。

コース終盤はかなりの急斜面である。

花には詳しくないが、アカヤシオ?

 
アクセス JR大嵐(おおぞれ)駅より。ただし、列車本数が極めて少ない。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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