鳳来寺山
「ブッポウソウ」の山
■標高:684.2m
■歩行時間:2時間
■登山日:2009年10月3日

    愛知県の鳥はコノハズクである。その鳴き声の聞きなしは「ブッポウソウ」とされ、「声のブッポウソウ」としても知られる。少々紛らわしいのだけれど、コノハズクとは別にブッポウソウという鳥もおり、それと区別する意味を込めて「声の…」などと言われるのだ。昭和40年に愛知県鳥獣審議会が県民投票を経て県の鳥に選定したもののようである。東三河の新城市にある鳳来寺山は、そのコノハズクの鳴く山として知られる。600m級の、低山の部類に入る山だが、このあたりの山でよく見られるように岩場が卓越しており、男性的な景観が楽しめるため、ハイキングコースとして人気がある。また、山名の由来にもなっている鳳来寺や、鳳来寺東照宮などの建立された信仰の山であるため、古くから登山者の多い山でもあった。



 前述の通り、歴史的に見ると鳳来寺山は、信仰の山であった。現在の登山道には、三河大野方面から続く東海自然歩道の他に、鳳来寺への参道を基調にしたものとがある。好みは分かれるだろうが、より鳳来寺山らしい登山ルートとなると、やはり参道側のコースということになろう。1400段を超える石段により、知る人ぞ知るルートとなっている。香川のこんぴらさんの石段が1368段とかで、これを数十段上回る段数ということになる。私はこんんぴらさんの石段も登ったことがあるが、鳳来寺山のそれはこんぴら詣での場合よりも傾斜がきつく、登り坂と登り坂のインターバルも短いため、体力の消耗は激しい。

 と、鳳来寺山の石段の手強さを強調する以上は、これに挑むのが筋というものだが、今回は鳳来寺山パークウェイに乗り、その行き止まりにある駐車場まで車で乗り付けて、石段の大半をスルーする形でのアタックを仕掛けることになった。本来なら「三河大野の駅から徒歩」という長行程さえも辞さない覚悟だったのに、電車に乗り遅れてしまったので、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ思いで車利用に宗旨替えしたものである。奥三河地方への鉄道アクセスは飯田線を利用することになるが、本長篠より先は列車本数が極めて少なくなるのだ。

 パークウェイ自体は、厳密に言えば有料道路ではないのかもしれない。どん詰まりにある駐車場が有料なだけである。ここで500円を払って車を停め、ちょっとした土産物屋が並ぶ登り口を、鳳来寺参道のほうへ向かう。このコースだと途中に鳳来寺の宿坊なんかが見える。古くからこの場所に信仰が根ざしていたことを感じさせる光景である。

 このあたりから山頂までは二通りの道がある。すなはち、鳳来寺本堂の奥から鳳来寺奥の院を経るルートか、東照宮の奥から鷹打ち場をかすめるルートか、だ。いずれにせよ、二つのルートは山頂で合流する形になるため、鳳来寺山の登山客の中には円を描くルートでこの山に挑む人が多いと思われる。今回私は、鳳来寺本堂の側から山頂にとりつくことにしてみた。

 本堂周辺までは、まだしも人の通う道という雰囲気だったのだが、少し奥に進むと道はいきなり険しさを増す。苔むした石段、本来人の歩くような場所ではない所にかけられた鉄製の階段、いずれもかなりの急傾斜で、かつ滑り易く足元を取られやすい。思ったよりも手ごわい道行きである。道中、こういう個所は多い。逆に言えば、それだけ大がかりな工作物が山のいたるところに設置されているということでもあり、その意味ではよく人手の入った山であるとも言える。ハイキングコースが整備される以前は、それこそ修験者が入るような険しい山だったのだろう。

 道は全般に樹間を走っている部分が多く、奥の院裏手等、要所要所の岩場でないと展望は望めない道のりとなる。なお、鳳来寺登山における一つのマイルストーンともなる奥の院は、古く修験者のベースとして利用されたようで、小さな破れ寺のような風情である。

 40分ほどかけてたどり着いた標高684.2mの山頂も、周囲を木々にさえぎられて展望は望めない、地味な頂である。この山頂は東海自然歩道の交差点(三叉路)になっており、どちらかといえば自然歩道のチェックポイントの一つとでも表現した方が直観的だ。ここまで来れば一応鳳来寺山の山頂は征服したことになるのだが、近隣で最高のピークは、鳳来寺山頂から5分ほど宇連(うれ)山側に歩いた所に位置する瑠璃山という山らしい。そして瑠璃山の方が鳳来寺山頂より雄大な眺めを期待できるのだけれど、本当の山頂は大岩の上となる様子。この岩、頑張ればよじ登ることもできそうだが、いかんせん足場が悪いのでそこまではせずに引き返す。

 下りの道は、天狗岩やら鷹打場といった岩場が頻出するルートをチョイス。往路に比べれば急な登り下りも少なく、ともすれば冗長な印象を受けてしまいがちな道のりだ。そんな道のアクセントとして、いくつかの岩場やビューポイントが点在している感じである。所によっては南アルプスも遠望できる。

 山頂からとぼとぼと、展望のきかない道を行くと、10分ほどで天狗岩に到着。なぜ天狗岩なのか、その由来も定かならぬ岩場だが、展望台が設置されており、ここからの景観は期待できる。もっとも私の場合は、好ましからぬ先客がいたため、落ち着いて展望を楽しむという雰囲気でもなかった。そそくさと、次なるチェックポイントとしてその名が見えるようになった鷹打場を目指す。道すがら「巫女石と高座石」と呼ばれる遺物も残されているが、高山でしばしば見られるケルンの親戚のような石積みである。神仙の類にちなんだものという伝説があるらしい。

 巫女石・高座石から10分かかるかかからないか程で鷹打場へ。東海自然歩道、つまり登山道から少し外れて下った先にある。ここは、三方が断崖となった露岩で、鳳来寺山の中では最も派手な景観ポイントだ。展望も利くし、岩場それ自体に迫力がある。ここまで来たら鳳来寺山登山も実質的に終わりである。ここから再度自然歩道に復帰し、しばし歩くと東照宮の裏手に出る。鳳来寺東照宮は、日光・久能山と並ぶ日本三大東照宮の一角を自認しているが、世の「三大○○」にありがちなように、あくまで自認しているだけであって、全国的に認められているわけではない。東照大権現こと徳川家康の両親、松平広忠と於大の方にちなむという由緒があるので格は高そうにも思えるが、建物も至って地味だ。

 東照宮の階段を下りると、往路で見てきた鳳来寺の宿坊あたりに合流。山麓から石段で登ってきたにせよ、パークウェイまで車で来たにせよ、この先は来た道を引き返すだけである。
鳳来寺本堂。いたって新しい。

奥の院。数年後に再訪した時には倒壊していた。

鳳来寺山頂。

瑠璃山付近から見た奥三河の重畳たる山並み。

鷹打場への下山路は眺めが良い。登りの場合は展望を背負う。

鷹打場。

鳳来寺東照宮。日光・久能山に続く三番手をどことするかには諸説がある。

 
アクセス JR本長篠駅より豊鉄バス「鳳来寺」下車。またはJR三河大野駅より。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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