三ツ瀬明神山(三ツ瀬登山口より)・その2
奥三河の盟主に登る
■標高:1016m
■歩行時間:5時間
■登山日:2009年3月2日




 思いがけず長編化している三ツ瀬明神登山記の後編。縦走のような場合を除き、大方の山登りでは帰路は登ってきた道を引き返すだけだけになるのだけれど、明神山の場合は登山路が3ルート存在しているため、登りとは違ったルートで山を下ることが出来る。3ルートのうちの一つは言うまでもなく登りに利用した三ツ瀬からの南登山道で、残り二つは柿野からの北登山道と乳岩(ちいわ)峡からの乳岩ルートである。

 北登山道に関する情報は少ない。山頂まで登ってみると、なるほど今しがた自分が登ってきたのとは真逆の方向からも登山道が延びてきているのだが、これを下ればどこに出るのか、「新・こんなに楽しい愛知の130山」の中でも言及されていない。web地図や柿野という地名その他から推測すると、どうやら行き着くところは役場などもある東栄町の中心部・本郷地区らしい。北に位置する尾籠岩山方面への登山道と分岐するコースなのかもしれない。

 そして最後の一つ、乳岩登山道だが、これは新城市側の乳岩峡から延びてきているルートだ。明神に存在する三本の登山道の中ではもっとも歩行時間が長くなるルートで、一般に健脚向けのコースとされている。反面でこのコースには鎖場などが存在せず(三ツ瀬登山道との合流以後の区間を除く)、そういった意味では、時間に余裕があり、かつ足腰に自信のある向きならばこちらの道を選んだ方が当たり障りは少ないかもしれない、というルートでもある。余談だが、鎖やハシゴは思ったよりも上半身の筋肉を使うらしく、後から上腕や背筋が筋肉痛になったこと思えば、なかなかの曲者である。山登りが全身運動になるという感覚がなかったからなおさらだ。

 オープンエアの吹きさらし展望台に座り込み、帰路についての方針を練る。そう難しい話でもなく、もともとは三ツ瀬口から登り、乳岩へ下る計画でいた。東栄駅からタクシーで登山口に移動した理由の一つもそこにある。車利用だと、畢竟もと来た道を引き返さなければならなくなる。しかしそれにしても、登りで迷走した結果、当初の計画より幾分か残り時間が少なくなっている。見込みでは日中いっぱい時間を使う覚悟でいたので、場合によっては暗くなるまでに山を下りられないのではないかという気さえしてくるが、あらためて「愛知の130山」の標準コースタイムを見返すと、2時間弱ほどで乳岩峡の入口まで戻れることになっている。まあ、平均よりは早く歩ける足を持っているはずだし、よほどの事がない限りは常識的な時間に山を下りられるだろう。そう考え、持参したチョコレートをばりぼりとむさぼり終えると、山を下り始めた。

 往路で通り過ぎてきた合流点まで、来た道を引きかえす。途中には馬ノ背のものをはじめ、鎖場やハシゴが数箇所存在している。いずれも、登りよりは下りの方こそ神経を使う難所だったが、とにもかくにも合流地点まで戻り、道しるべがさす「乳岩」方向への道を下り始める。緩やかな下りだ。が、間もなく「胸突き八丁ノ頭」と名づけられたポイントに到着。その名の通り、ここから先は胸突き八丁の急坂が始まる。今回は下りなので、こんな急斜面でも息が切れるような大変さはないのだけれど、足にかかる負担は相当なものである。多分、乳岩峡側から登ってくると、長期戦で体力の消耗したところにこの急登となるのだろう。なかなか難儀なことだ。そんなことを考えながら先へと足を進める。

 乳岩峡登山道は、明神山の南面に延びている。そのためか、こと高高度の区間に関しては三ツ瀬登山道に比べると柔らかな陽光の差し込む明るい道と言う印象がある。反面で、コースそのものの名前にもなっている岩山・乳岩山をはじめ、道沿いに巨岩・奇岩が連なる男性的な特徴を持ったルートとも言える。そもそも明神山一帯には火山活動の後に生まれた侵食谷が広がり、国内有数のロッククライミングエリアともなっているのだ。

 胸突き八丁を行き過ぎ、鬼岩乗越を越えてさらに進むと、クライマーのメッカともなっているという鬼岩に到着。書籍にせよwebサイトにせよ、明神登山のガイドではたくさんのクライマーの姿が目に付くとされていることの多いポイントだが、この時はただの一人もそういった人は見当たらなかった。ただ、巨岩が庇状になっている場所でシュラフを使って眠っている人が一人いただけである。一応登山道脇で、多少なりとも人通りのある場所だ。眠るにはあまり都合の良くなさそうな場所なのだが、なぜ彼はあそこで眠っていたのだろうか。もしかして昨今の不況に世を倦んで山中に隠遁するようになった人なのだろうか。勝手な想像をめぐらせる。まあ祝日でもない月曜の午後と言う、登山者も少なそうなタイミングではあったし、開き直り手近なところで仮眠を取っている普通のクライマーだったのかもしれない。

 鬼岩の直後に小さな沢を渡ると、後は特に変化のない林間の道が、ただもう淡々と続く感じだ。率直に言えば単調で面白味に乏しく、足を交互に前に振り出すという単純作業をひたすらに繰り返す。長い下りが続いたので、そろそろ足も萎え始めている。「あとどれくらい続くのだろうなあ」と倦み疲れ始めたところで、乳岩との分岐に到達。ここで乳岩側に進路を取ると、先ほどの鬼岩よりもさらにダイナミックなたたずまいを見せる岩山・乳岩にたどり着くのだが、さすがにここから乳岩を目指す意欲も湧かないので、峡谷の出口を目指す。なお、乳岩は周囲を一周するのに1時間ほどを要する。山登りというほどの登りはない。

 乳岩分岐を横に見れば、乳岩峡の出口はすぐだ。マイナスイオンとオゾンがない交ぜになった桟敷岩の上を進む。その終りには、今でも営業を続けているのかどうか定かではないのだがシャッターの下りた売店の建物があり、傍らには近くの沢の水をくみ上げたものと思われる水場があった。その水で、往路で滑落した時やちょっとした藪こぎをした時以来泥と血にまみれていた手を清めた。ここから飯田線三河川合駅までは40分ほどだと言う。先ほどまでとは打って変わり、舗装された歩きやすい道をたどって三河川合駅に着くと、タイミングの良いことに、ほとんど待ち時間もなく電車がやって来た。
赤がまぶしい山頂展望台。

「明神」と刻まれた碑。

南アルプスの深南部が近い。

「鬼岩乗越」付近より。岩場が良く目立つ。

オーバーハングな巨岩。

鬼岩付近からの渓流。

 
アクセス JR東栄駅よりおでかけ北設バス「三ツ瀬口」下車。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
関連サイト

その1へ戻る  



▲山これへ戻る