三ツ瀬明神山(三ツ瀬登山口より)・その1
奥三河の盟主に登る
■標高:1016m
■歩行時間:5時間
■登山日:2009年3月2日

    三ツ瀬明神山は、愛知県の北東、北設楽郡東栄町と新城市の間にまたがる山である。近くに明神の名を冠する別の山(平山明神山)があるので、愛知県内の山に詳しい人は「三ツ瀬明神」と呼んでそれと区別する。もっとも、地元の人にしてみれば「明神山」と言えば普通はこの三ツ瀬明神の事を指すものだとも言う。標高1016mは、低山県愛知にあってはかなりの高山の部類に入る。もちろん、全国レベルで見れば千をちょっと出る程度の高さなどは低山の位でしかなく、愛知県内においてさえもっと高い山は存在する。しかし、高度以上にゴツゴツとした岩が連なる三ツ瀬明神の山容は、県内の愛好家の間では人気が高く、近在の山の頂から遠望した時の存在感など、総合的に見れば奥三河の盟主と言って過言ではない。



 明神山の名が示すとおり、この山はかつて信仰の対象とされており、信仰登山が盛んだったという。なるほど、山頂に近づくにつれて険しさを増す登山道は、さながら修験者が山岳修行を行う霊山のようでもある。コース上には愛知県内の山では希な鎖場やハシゴなどもあるが、一応は特別な装備や特殊技能が無くても登れる、中級者以上向けの山だとされる。登頂路はいくつかある中で、三ツ瀬登山口からだと比較的に短行程となる。そのこともこの山の難易度を下げる材料だ。

 東栄町を目指す場合、マイカー利用だと豊橋・豊川から国道151号線を北上するルートが推奨されるのだが、今回は諸般の事情により鉄道を利用。8:12に豊橋駅を出る飯田線に乗り込み、そこから1時間40分の列車旅だ。大学に進学するまでは時折乗っていた飯田線だが、考えてみればこの路線を利用するのはそれ以来のような気がする。

 電車利用で明神山(三ツ瀬登山口)を目指す場合、登山口までの最寄り駅は東栄駅となる。高校時代の部活の合宿をこの山間の町で行っていたので、その時に降り立ったことがあるはずの駅なのだけれど、当時の様子をほとんど覚えていない。駅前はもう少し広かったような気もするのだが、ロータリーの類は備えず、普通の生活道路沿いに東栄駅の駅舎がある感じだ。もちろん、無人駅である。愛知県内ハイキング定番の書となっている「新・こんなに楽しい愛知の130山」によれば、東栄駅から登山口まで向かう場合は、タクシー利用が便利だとされているので、それに従う。

 田舎の無人駅なので当然駅前にタクシーが常駐しているようなはずも無く、駅舎内にあった公衆電話でタクシーを呼び寄せ。地元では有名な山なので登山口までの道は心得たものらしく、車は速やかに山を目指す。途中の車内で、運ちゃんに軽装を見咎められ(?)るも、過去に明神登山の経験があることを話すと、その話題はその場限りになった。さらに下山路についての予定も尋ねられたところを見ると、遭難の心配をされていたのかもしれない。結果的にはこの運転手氏の懸念はあながち杞憂でもなかったのかもしれないが、とにかく金額にして3000円弱の道のりを走って三ツ瀬登山口に到着。思いがけず交通費がかさみ、予想外にお高いレジャーとなってしまった感はある。

 再三述べている通り、登山愛好家の間で明神山の評価と人気は高い。そのためかどうか、登山道の整備と言うかルートガイド等のアップデートは頻繁に行われているらしく、登山口にもえらく立派な看板と案内図が設置されていた。それによると、登山口から山頂までの所要時間はおよそ2時間半ほどとなるらしい。諸所のサイトや本のガイドを見ても、三ツ瀬登山道の歩行時間は2〜3時間程度となっている。私の足なら1時間半で行ける。現在時刻が10時半。ちょうど正午に登頂することを心に期していよいよ登山道へと足を踏み入れる。コースの入口には小さいながら沢があり、登山は飛び石伝いの渡河から始まる。スタートからしばらく、日の届かない林間の道を行く。傾斜はさほどきつくない。特別風景が美しいわけでもなく、淡々と進む。

 普通ならどうと言うこともないコースだが、魔界の入り口は思わぬところに開いているもので、ここで私はまさかのミスコースをした。以下しばらくは正規コースに関する記述ではないので、これから明神に登ろうと言う人は参考にしないで頂きたい。

 それはさておき、このときの私には道中にある枯れ沢が、ゴロタ石の露出した急登に見えてしまったのだった。そちらを突き進んだものだから、さあ大変である。思い込みと言うのは恐ろしいもので、当時の私は道なき道ですらない単なる斜面に先人の踏み後を見出しており、どんどん険しくなっていく道のりに幾ばくかの疑問を抱きつつも、回れ右という選択肢を選ぶことができず、ひたすら前進を続けてしまった。明らかにおかしいと思った時には後の祭り、これまでに進んできた道のりは下り降りるのに恐怖を覚えるほどの急斜面である。幸い、もう少し登れば尾根筋に出そうだった。

 明らかに人の通う道ではなくなっている急斜面を、へばりつくようにして這い上がっていたまさにその時、南無三、足元の地面が崩れた。今いる場所は、「足を踏み外せば奈落の底までまっさかさま」と言うような絶壁でこそないが、いったん滑落を始めれば何十メートルかはズルズルと滑り落ちてしまいそうな斜面である。場合によってはただでは済まないことは容易に想像できた。次第に加速度を増しながら滑り落ちていく体を支えるため、必死になって指先を斜面の土中に食い込ませた。簡単に崩れる程度の地面なのだから、手刀のようにした掌が土に突き刺さり、どうにか落下は止まった。数日前、富山県の雪山で滑落事故に遭った豊橋の女性の事が思い出された。そこからさらに悪戦苦闘しながら尾根筋に到達。この尾根には明らかに人の通った跡があったためそこを辿って山の上のほうを目指す。が、結果的にはこの作戦も誤りだった。どうやらこの道は林業関係者か何かの作業用通路であっていわゆる登山道ではないらしく、最終的にはとてもよじ登れそうもない岩壁に突き当たって消えてしまった。

 ここに至り、ついに無事の下山のみを考えて行動するように作戦変更。とにかく迷い迷いしながら尾根から下へ降りられる道を探した。悪戦苦闘の末に、どうにか安全に谷筋へと降りられる通路を見つけたが、その先がようやく正規の登山道に合流していた。時計を見るとすでに11時を大きく回っている。30分以上も迷走を続けた計算になる。さて、ここからどうするか。先ほどまでは明神山頂未踏のままの撤退も辞さないつもりでいたが、体力的にはまだ余裕があるし、時間もギリギリながら十分登頂を狙えるタイミングではある。そこで、再びアタックを開始。

 ようやくまともな道に出会えたことで足取りも軽くなり、程なく尾根道に到着。もちろんこちらは登山道の一部で、三ツ瀬峠などとも言われる箇所らしい。しかし、歩行時間の短い三ツ瀬登山道もこのあたりからは巨大な岩盤が露出し、険しさを増してくる。すなはち、鎖場やハシゴの登場である。ここから先は、ただ歩いていれば良いというわけではなく、尾根上に散在する普通では乗り越えられような巨岩を、時に鎖につかまりながら、時にハシゴを上りながら、乗り越えていかなければならない。

 単なるハイキング山とは一味違う険路を行くこと30分。乳岩峡から延びてきたもう一つの登山道と合流。ここから山頂まではさらに30分ほどの道のりだ。当然、道は険しい。鎖場とハシゴが連続する。圧巻が八合目の馬ノ背岩だ。もう何度目になるか分からない鉄ハシゴを上りきると、岩肌の露出した痩せ尾根の上に出る。と言うか、尾根上に露出した岩盤の上にハシゴを使ってよじ登ると言った方が適当か。この馬ノ背岩は、一応大人二人がすれ違える程度の広さはあるのだけれど、岩の両側は文字通り断崖絶壁となっており、足を踏み外せばまず命はない。高所恐怖症の人は目を回しそうになるところだろう。明神登山のクライマックスといって良い。もちろん、遮るものが何もないわけだから視界は良く、宇連ダムによって堰き止められた鳳来湖の様子なども一望の下に出来る。

 馬ノ背からさらに10分ほど急登が続くがその先が山頂だ。真っ赤な鉄骨組みの展望台が設置されている。南西方向以外には良く展望が利き、南アルプスの雪山などを見晴るかすことが出来るが、「えらく俗な物が建っている」と言う印象もまた否めない。

 時計を見ると、12時半少し過ぎ。ちょうど山中で迷子になっていた時間分だけ当初到着予定より遅れた計算になる。
「花祭」の鬼が出迎える東栄駅前。

三ツ瀬登山口。幹線道路からは引っ込んだところにある。

鎖場1。三ツ瀬からの登山道は、主尾根に出るまでにも鎖場がある。

ハシゴ。無骨な鉄バシゴよりは登り易い。

鎖場2。乳岩峡からの道を合わせた先にも鎖がある。

馬ノ背の足場はしっかりしているが、両脇は断崖。

写真中央から左の湖面が鳳来湖。右奥が宇連山。

 
アクセス JR東栄駅よりおでかけ北設バス「三ツ瀬口」下車。
ガイド本 新・こんなに楽しい愛知の130山 風媒社
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